インド・ネパール走行を終え、次の目的地はニュージーランド(NZ)となった。
毎度大胆に大陸を変えてびっくりされる僕らだけど、さすがにネパールからNZとは自分たちでも驚く大胆さだ。
しかも、この旅の出発当初に大まかなプランを計画していた時ですら、NZの「ニュ」の字すら会話に登場したことはなかった。
そんなノーマークの国に行くのだ。いくら思いつきで突拍子もない行動に出る僕らとはいえ、さすがに今回はちゃんとした理由がある。
僕の両親がNZに来ることになったのだ。
2009年。
あれほどアクシデントに見舞われた一年はなかった。
1月にエジプトの海で溺れかけ、2月にケニア山で高山病になって死にかけ、4月にタンザニアで貴重品をすべて盗まれ、5月にようこが豚インフルエンザ(疑惑)にかかり、8月にモザンビークで拳銃強盗にあった。
そんな散々な一年の極めつけは、9月、母重病の知らせだった。
大手術を終え、病院の廊下を歩くのも辛そうだった彼女は、周りの人たちに温かく支えられながら、驚くほどの回復を見せた。
先が全く読めない一時帰国をしていた僕らも、3か月後には旅を再開することができた。
リキシャマンは花が好き。ヒンドゥー圏のリキシャドライバーはこぞって花で愛車を飾る。
あれからもう3年。
いつ再発の凶報が届くかとビクビクしながら旅を続けていた僕ら。
でもそんな僕らの心配をよそに、母は順調に回復し続け、いまや海外旅行ができるほどになった。
「無事に終わったらどこでも好きな国に連れて行ってあげる。」
手術前にそう約束した時は、そんな日が本当に来るのか半信半疑だった。
術後、麻酔で朦朧としたまま「これでひろと旅ができるね。」とうわ言のように繰り返していた母。
その母にとっての夢舞台、ニュージーランド。
ネパール西部のメインハイウエイ。メインハイウエイなのに車は1日数台しか通らない。
気が付けば僕らに残された旅の時間も残り少ない。
この旅が終わったら日本社会に戻る予定の僕らにとって、この先、両親と一緒にゆっくり海外旅行ができるチャンスなんてそうそうない。
一時帰国中、献身的に母を支えてくれたようこも、自分の親の事のように喜んでNZ旅行を賛成してくれた。
旅行にあまり興味のない父も、NZなら(きっと)まんざらではなさそうだ。
もちろん自分たちの旅行だって忘れちゃいない。なにせNZは有名な自転車旅行大国なのだ。両親が来る前に1か月間、南島を自転車でまわることになった。
もともとネパールの次はモロッコに飛ぶ予定だったのだけど(それも十分大胆な移動だ)、
ネパール、NZ、モロッコという世にも奇妙な大移動をすることになった。
お金と時間はかかるけど、そんなちっぽけな事には代えられない。
今しかできない、幸せな時間が待っているのだ。
安宿のしょぼい雰囲気ってなかなか写真には写りきらないのだけど、これはなかなか質素な雰囲気が伝わる気がする。日当たりがいいので最悪ではないけれど、もしチョイスがあるのなら選びたくない宿。一泊ダブル200円なり。
さて、ネパールからシンガポールを経由してNZに飛ぶことになったのだけど、
シンガポールでは、両親が来るのは1ヶ月半も先だというのに、徹夜でパソコンに向かって調べ物にいそしむ日々が続いた。
なにせNZ行きを決めてから「へー、NZって北島と南島があるんだ。」と知ったくらい、全くもって未知の国なのだ。自分たちがどこをどう走るかすら、何も決まっていない。
どんな観光スポットがあって、どんな事に興味があって、どんな宿に泊めて、何を食べて・・・
自分たちの走行ルートを決めようにも、両親との旅行について予定を立てようにも、両親のために宿を予約しようにも、果たして何から調べたものだか、さっぱり見当がつかない。
しかも僕らは自転車旅という自由な旅を続けてきた。
空を眺めて明日の予定を決め、着いたその場で一夜を明かす場所を探し、お腹が空いたら道端に座り込んで昼食を作り出す。
そんな気ままな旅をしている僕らが、1か月先の予定を立て、1か月先の宿を予約してしまおうというのだから、これはストレス以外の何物でもない。
天気も気分も体調も分からないまま予定なんて立てられるか!実際に見もしないで宿の予約なんてできるか!と叫びたいところだけど、だからいって両親を連れてその場で宿探しをする訳にもいかない。
瞳孔を開きながらパソコンに向かって宿やレンタカーの予約を始めてみるのの、両親が来る2月はハイシーズンというのもあって、どこもかしこも予約でいっぱいだ。
カトマンドゥの和食。味だけでなくお皿、盛り付けも日本風なのには脱帽物。
いやあ、たまげた。
予約でいっぱいって、だってみなさん1か月以上も先ですよ・・・
1か月先の予約をするということは、これから1か月間、「天気はいいんだろうか、体調崩さないようにしないと」と心配し続けるということじゃないか(そう思ってしまう僕は極端な心配性なのだろうか)。もし僕らがそんなスタイルの旅をしていたら、数週間もしないうちにぐったりち疲れ切ってしまうに違いない。
つくづく自転車旅でよかったと思う。
なにはともあれ、なんとか全ての予約は終わり、今の僕ができる最大限の準備はした。
20代のころだったらもっと安上がりなバックパック旅をさせていたのだろうけど、今はもう少し大人になって、今の僕が想像できる最大限のラクシュアリー旅を提案したつもりだ。
といっても世間一般的にいえば可哀そうなほどチープな旅をさせてしまうのだろうけど。
さあ、後は両親の到着を待つばかり。
二人が来るまでの1か月間、自由きままな自転車旅を楽しもうか。
楽しい旅になりますように。
ネパールにはアウトドアブランドの偽物が多いけど、これはれっきとしたネパールブランド、エベレストハードウエア。マウンテンハードウエアのパクリだけど、可愛くて購入。