Apr,27,2009

文字通り頭が真っ白になった。
寝ぼけた頭で現実と夢の中を行ったり来たりした。
でも、これは現実だった。
私たちは盗難事件に遭ってしまったのだ。

ムワンザからモロゴロまでの1200kmの移動を列車ですることに決めた私たちは、
4月20日タンザニア鉄道の1等寝台に乗り込んだ。
自慢じゃないけど、旅を始めて以来1等なんて利用したことがなかった。今回は荷物が多かったこと、30時間以上乗ること、2等寝台は男女別々にしか利用できないこともあってファーストクラスを利用することになった。
夢のファーストクラスに、胸が躍った。


これが夢のファーストクラス車両の外見。左から2番目のベニア板がガラスの代わりにはまっているコンパートメントが私たちの部屋。

目の前に現れたファーストクラスに、「ブッ」と噴き出しそうになった。
そうそう忘れちゃいけない、私たちはタンザニアにいるんだった!
タイやインドの3等並みの外見。
プライベートコンパートメントの扉を開けば2畳強の昭和の学生寮のような空間が広がっていた。窓ガラスは割れていて、代わりにベニヤ板が張ってあった。
「これが夢のファーストクラスかぁ。」
期待してはいけないと思ってはいたけど、
予想以上のショボさに2人ともガッカリを隠せなかった。
それでも住めば都、1時間もすれば2人だけの個室の気楽さに、
1等にして良かったなと思った。


これがコンパートメントの中。

夜になると2畳の城はゴキブリ王国と化した。
視界のいたるところでチョロチョロと動く。
大のゴキブリ恐怖症の私にとって、それはそれは長い夜だった。
朝になって明るくなると、大量のゴキブリたちは物陰へと消えていった。

ゴキブリの不安が消えたら、今度は違う不安が出てきた。
モロゴロへは夜中の3時くらいに到着予定。
ただこちらの列車は大幅に遅れることで有名なので
きっと到着は朝になるだろうと思っていたのに、出発から15時間経っても至って順調で
遅れる兆しすらない。これじゃあモロゴロに夜中に着いてしまう。
泥棒が沢山いると噂のタンザニア鉄道の駅。
不安はどんどん膨らんでいった。

ひろと真剣に話し合った結果、
もしモロゴロに着いて駅が怪しげなら、追加料金を支払ってダルエスサラームまで行ってしまうことに決めた。ダルエスサラームには午前中に着く予定。少し遅れたとしても明るいうちに街に着く。この決断に少しホッとして、モロゴロに着くまで仮眠をすることにした。
夜中に素早く移動できるようにと、貴重品類を小さなリュック2つにまとめた。

「夜寝るときは必ず窓を閉めて、ドアの鍵を閉めて、明かりを消すんだよ!」
とわざわざ車掌さんが念を押しに来た。
「2日目の夜になって言いに来るなんて遅くない?昨日は開けっ放しで寝ちゃってたよ。」
と思いながら素直に窓を閉めてつっかえ棒で止めた。
入口のドアの鍵も閉めた。
でも、ウジョウジョするゴキブリが怖くて、電気は消せなかった。
そして仮眠。22時のことだった。

寝過ごすのが怖かったから1時間おきぐらいに起きては寝てを繰り返していた。
01時30分、
ひろがムクッと起きた。
「窓が開いてるや、閉めなくちゃ。」
寝ぼけながらひろが窓を閉める。
この時は何かの衝撃で窓が開いてしまったのかと思った。
私もムクっと起きた。そして足元に目線を移して驚いた。
「カ、カバンがないよ、ひろ!」

頭からパァっと色が消えた。
寝る前に全ての貴重品をまとめて入れたリュック2つだけが
忽然と目の前から消えていたのだ。
ひろは私の叫びにすぐに反応できずにいた。

「ようこ、落ち着け、落ち着くんだよ、ようこ。」
と言いながらひろが慌ててた。
何が起きてしまったのかなかなか理解できなかったし、
理解したくなかった。
10分くらいボー然とした気もするけど、きっと1分くらいだったに違いない。
ひろが車掌と鉄道警察に伝えに行った。
ポリスが来て、盗まれたものを全て値段と一緒にリストアップしろと、紙とペンを渡された。
車掌が来たので、モロゴロでは降りずにこのままダルエスまで乗せてくれと頼んだ。
車掌はダルエスまで乗りたいなら一人16900シリング追加を払えと言ってきた。
耳を疑った。
たった今盗難に遭って、パスポートもカードも現金も失ってしまった人たちに向かっての第一声が金払えかよ。
思わず「私たち、たった今お金盗まれて一銭もないのよ」と叫んだ。
ひろが「ようこ怒るな、この人はこれが仕事なんだから」って言ったけど、
怒りで手が震えた。
車掌の態度にはムカついたけど、不思議と盗まれたことに対して何の感情も湧かなかった。
あまりに実感がわかなかったからかもしれない。
盗まれた物をリストアップしながら落胆した。
「はぁ、この半年の旅にかかった費用分くらいを盗まれてしまったのか」

つづく


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