ようこの両親と過ごしたスペインでは、レストランに行ったりバルで飲んだり自炊したりと、毎日充実の食生活を過ごした。
そして胃疲れがたまってきた終盤、ポルトガルに突入。
ポルトガルは海鮮料理が新鮮で美味しくて安い。タラにイワシにタコにイカに海鮮リゾット、疲れた胃袋をケアすることもなく、鬼気迫る勢いで食べ続けた。
ホテル暮らしはコレでおしまい。再び幸せのテント生活へ。
ヨーロッパでは滅多にレストランに行かない(というか行けない)僕らにとって、レストランのメニューは物珍しくてたまらない。
特にポルトガルは新鮮でシンプルな味付けの海鮮料理が多いので日本人的にスマッシュヒット。
さらに日本から持ってきてもらった梅干しや素麺やセンベイといった魅惑的な日本食の数々。
お腹が空いたから食べるというより、時間になったから食べるといった日々が続いた。
そんな美食・飽食旅のつけは、しっかりと回ってきた。
体が重い。顔も丸い。
長年着なれたTシャツが今にもはちきれそうだ。
両親を見送ったついでに空港で体重計に乗っかったら、人生の最高記録を見事に更新していた。
さらにというか、案の定というか、自転車にまたがって愕然とした。
1か月前は楽々と乗りこなしていた愛車。
すっかり足の筋肉が衰え、贅肉が増え、誰かがこっそり荷物を足したじゃないかと思うほど重さを感じ、平地をちんたら走っているだけなのにハアハアと息が乱れる。
4年以上も自転車で走り続けてきた健康体が、1か月足らずでこんなに衰えてしまうとはショックだ。
でもひいこら言いながら数時間ほど走ったら、お腹が空いてきた。
キューっとお腹が豪快な音を立てて鳴り、体全体でお腹が空いたことを感じる。
「ああ、おなかすいたー」
その感覚が本当に久しぶりだ。
そうだ、お腹が空くってこういう感覚だったっけ、と無性に幸せを感じる。
そして道端で頬張るパンやリンゴの美味しさ。
レストランのように洗練された味じゃないけれど、とても満たされた気持ちになる。
両親のためにフル回転し続けたようこを休ませて僕らの旅のペースに戻るために、キャンプ場に移って少しゆっくり休むことにした。
久しぶりに小じんまりした我が家を設営し、小さなストーブでママゴトの様に食事を作り、手ぬぐい大のタオルを駆使して体を拭きとる。
大きくてふかふかのバスタオルも、旅の垢を落とすバスタブも、お皿がずらりと並んだキッチンも、素敵なワイングラスも、真っ白なシーツがかかったベッドもない。
旅が長くなるにつれて「あれがあったらいいなー」と憧れを覚えるようになっていたそれらのアイテムだけど、実際にそれらが身近にあったこの3週間、それらに感激を覚えることは少なかった。
それどころか「こんなの別に必要ねえよな」と反発すら覚えることがあった。
両親と泊まった素敵なホテル。これも幸せだけど、今欲しいのはコレじゃない。
旅の最終ステージとなった今は、そういったラクシュアリーに幸せを感じたい時ではないのだ。
多少の不便があっても「これで十分に満ち足りている」という感覚を、過不足ない幸せを噛み締める感覚を、思う存分味わいたいのだ。
日本に帰って定住生活を始めたら、きっとバスタオルだってボディシャンプーだってシーツだってベッドだって、毎日当たり前のように使うことになるのだから。
「足るを知る」幸せを噛み締めながら、
さあ、最終目的地サンティアゴ・デ・コンポステーラに向けて走り出そう。