May,25,2013

セビーリャを出てからというもの、日中バルでタパスをつまみビールを飲み、ちょっとよろけながら自転車をこぐという楽しみ以外は特になんてことはない日々が続いた。
特にポルトガルに入ってからはバルでタパスという楽しみはなくなり、ひたすら平地を走っているのであまり楽しみがない。昼ビールの癖はすっかりついてしまったので一杯は飲むものの、やっぱりタパスがないと盛り上がらず。
ただ、ポルトガルはキャンプ場が安くてファシリティーがいいので、走行後ゆっくりと食事をしながらワインを飲んでという時間が楽しい。

「平地ってつまらないよね」と文句を言いいながら辿り着いたポルトガルの首都リスボンでは、ひっくり返りそうなくらいの急坂が私たちのことを出迎えてくれた。
ジリジリと刺す強い日差し、きっと車でもアクセルをべた踏みしなきゃ登れないような坂道の連続、そして車一台しか通れないような細い道を必死に登っていると、道いっぱいの幅のトラムが勢いよく上がってきたりして、道脇に慌てて逃げ込まなくてはならなくて、なかなか走りにくいったらありゃしない。
坂のある街は景観が美しくていいなと思うけれども、住むのは大変だよなぁ。
リスボンのキャンプ場へはそんなこんなで街中に入ってからアップダウンを13キロも繰り返し、ヘトヘトになって辿り着いた。

リスボンから40kmくらい走ったところにユーラシア大陸最西端のロカ岬がある。
この自転車旅の最終ゴールにはスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを選んだのだけれども、端っこというのはゴール感があるというのもあって、ロカ岬も最終ゴール前のプチゴールとして訪れることにしていた。
最初は荷物を持ったまま訪れる予定にしていたのだけど、またリスボンに戻ってこなくてはいけないのに重い荷物つきで再び辛いアップダウンを繰り返すのは勘弁なので、リスボンに荷物を置いて空荷で行くことにした。

いつものように朝日を浴びて起き、いつものようにコーヒーを淹れ、荷物は置いて軽い自転車にまたがって走り出す。荷物がないとこんなにも楽に走れるんだね、と今更ながらいつもの重さに驚く。

ひろは最近は節々で旅の終わりを感じるようだけれども、私はまだいまいちピンとこなくて、旅の終わりに寂しさも感じなければ、新しい生活の始まりにワクワクすることもなく、在るがままの毎日を過ごしている。
ロカ岬へと向かってきた今日も特別な感情が湧くこともなく、リスボンからのショートトリップのひとつという感覚でしかなかった。
もちろん頭では今日はプチゴールの日ということは分かっていたのだけれども。

そんな私も視界にロカ岬の灯台が入ってきたら急に目頭が熱くなってきて、「終わり」の感覚がとうとうじわりとやってきた。
それでも、それが悲しいことなのか、嬉しいことなのか、自分の感情がまだいまひとつ分からない。

どこか卒業式に似ているのだと思う。
慣れた環境が一旦終わって新しい何かが始まる。
それを受け入れるために涙でリセットする。
そうやって悲しい涙でも嬉しい涙でもない、リセットの涙が出てきた。
ロカ岬がプチゴールだったからなのか、リセットの涙は卒業式のリハーサル程度だった。

きっとゴールでは大泣きするんだろう。
そうしたらきっと、これから始まる新しい生活へと心が準備を始められるようになるのだろう。
その時が来るまでいつも通りノンビリと楽しもうと思う。


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