アトラス山脈を越えて地中海の香りがするなと感じ始めて、シャウエンではまだ見ぬアンダルシア地方の気配さえ感じ始めたモロッコは、世界遺産の街ティトアンではもはやイスラムの雰囲気が漂うヨーロッパになってきた。
自転車最終日はヨーロッパ人たちのための別荘が並ぶ地中海ビーチの景色に、私たちはいったいどこを走っているのだろうと分からなくなってしまった。
時折現れる町にモスクがあったり、アラビア文字で看板が書かれていることだけが私たちがまだモロッコにいることを感じさせた。
不思議なもので、西アフリカから遥々と北上してきた訳でもない私ですら、この日は何だかアフリカ大陸の果てを意識する。青く眩しいジブラルタル海峡が見えたときは何だか胸がきゅんとした。
私たちがイベリア半島へフェリーで渡るために向かったセウタという街は、アフリカ大陸の先っちょにありながら実は既にスペイン領で、ごく普通の国境手続きを済ませてEU圏に入っちゃうという何ともドラマチックではない形でのヨーロッパインになってしまう訳なのだけど、実はタンジェという場所からもイベリア半島にフェリーが出ていて、こちらタンジェはモロッコなのでジブラルタル海峡を渡ることでヨーロッパ・スペイン入国になる。
私たちフェリー代の安さを取ってセウタから渡ることにしたのだけど、タンジェからの方が情緒があって良かったのかもな。
ティトアンの広場。モスクじゃなくて教会が。
国境という人工的な線を越えたセウタの街は、なかなかどうしてヨーロッパだった。
ヨーロッパ風とかじゃなくて、当たり前だけどすっかりヨーロッパ。
ヨーロッパ的には全く珍しくないのだけど私たちには久々の大型スーパーを発見し、さっそく自転車を横付けして勢いよく乗り込む。
勿論目当てはハムとビール。
ビールやワインがワンサカと並ぶ。5ユーロ以上するワインもなければ、1ユーロ以上するビールもなくて、「安ーい!!」一人でだいぶ興奮する。
次は「豚豚!生ハム生ハム」と鼻息荒く肉売り場に向かうが、残念ながらここは激安スーパー系LIDLだったため、パックされた生ハムしか売っていなかった。
しまった、スーパー選びを間違った。大型スーパーってだけで興奮してリドルが激安系のスーパーだということをうっかり忘れていた。最初が肝心だから良い生ハムを買いたかったんだけどな。
仕方がないので一番良さそうなハムを選んで、ビールは何故かスペイン産ではなく大好きなチェコのビールにして、両腕いっぱいに食料を抱えてレジに並んだ。
どの国でも一番初めのスーパーは楽しい。
国によって種類が豊富なもの、値段が安いもの、置いてある野菜の種類など結構違っていて面白い。
それに同じ国に何ヶ月かいると買うものも似てきてしまって飽きてしまうのだ。
モロッコとスペインだと品揃えはだいぶ違うのもあって、何もかもが新鮮で嬉しい。
それにお酒が手軽に買えるのが何よりだ。
さて、戦利品のビールと生ハムを手に入れて、対岸イベリア半島へ向かうフェリーに乗り込む。
たったの一人12ユーロ、1時間半でアフリカ大陸からヨーロッパへ。
なんて手軽なんでしょう。もっと乗っててもいいくらいのフカフカのリクライニングシートで軽く昼寝をしたらあっという間に対岸のアルヘシラスへ。
今晩からは物価の高いヨーロッパ。久々のテント暮らしが始まる。フカフカのシートに少し未練を感じながらもヨーロッパに突入。
美味しいものをいっぱい食べるぞ!ワインいっぱい飲むぞー!
ジブラルタル海峡。そしてあちらはアフリカ大陸。
ヨーロッパを感じるのは道路のスムーズさと路肩が綺麗なところ