Mar,14,2013

両親との12日間はあっという間に過ぎ去った。
大変じゃなかったと言えばウソになる。
コーディネーター兼ガイド兼ドライバー兼通訳として、大きな子供二人を抱えているようなものだ。
毎晩ようこと翌日の予定、食事、トレッキングルートなどについて話し合い、いつも崩れるように眠りに落ちていた。
でも楽しかった。掛け値なしに楽しい日々だった。


ミューラーハットトレック前半戦は永遠に続く階段登り。

驚くことに、12日間、見事なまでに天気に恵まれた。
悪天候に右往左往していた僕らの旅は何だったのかと思うくらい、素晴らしい天気が続く。
しっとり雨が似合うブナの森ではしっとり雨が降り、年間7000mmの降水量を誇るミルフォードサウンドでは雲ひとつない晴天が広がり、一年の半分近く雨が降るというマウント・クックも素晴らしい青空に恵まれた。
母が楽しみにしていたトレッキングも連日快晴のもとで楽しめたし、新月前後には満天の星空ドームに包まれて、星好きの父も南半球の夜空を大満喫していた。
ここまで運がいいと、NZに対する母の想いの強さと執念が天に届いた、としか考えられない。

そしてやっぱり天気がいいとNZの自然も全然違ったものに見えてくる。
自然を見に来る国なのだから、天気がいいのが何を差し置いても一番重要なのだ。
もし天気が悪かったら、この旅行の印象は全然違ったものになっていたに違いない。
特にミルフォードサウンドに向かう道は素晴らしくて、ここはぜひ自転車で走りたかった!とちょっぴり悔しく思うほどだったし、マウントクック周辺はNZのベスト風景といってもいいくらいだった。

NZにはトレッキングに行くの!と周囲に公言してきた程トレッキングを楽しみにしてきた母。
そうはいっても、数分歩くのも必死だった術後の母の姿が目に焼き付いているので、実際は数時間の散歩程度しかできないんだろうなと思っていた。
でもまず手始めに平坦なルートを3時間ほど歩かせてみたら、驚くほど速く、そして疲れも見せずケロリと歩いていた。
それではと3時間程度の登山ルートを、さらには4,5時間のトレックルートを歩いても、標準タイムで歩き切った上にまだまだ余裕の表情を見せていた。
NZに来たというハイテンションのアドレナリンパワーに加えて、予想以上に気合いも体力もありそうだ。


ミューラーハットの中間地点、セアリーターンズ。右側に見える山がマウントクック。

そんな母を見ていると、最後の旅程マウント・クックが近づくにつれて、
ミューラーズ・ハットという所要往復7時間、標高差1000mのハードなルートにチャレンジさせてやりたい、そんな無謀な思いが膨らんできた。
事前に計画をしている時は「凄く興味があるけど、ガイドブックに健脚向きって書いてあるし、私じゃ無理ね。」と言っていたし、僕らも無理だと思っていた。
でも景色はとても素晴らしいと聞いていたし、何よりここを登り切れれば素晴らしい思い出に、そして自分は大病を完全に、そして完璧なまでに克服したのだという凄い自信になるに違いない。

「中間地点のセアリーターンズまで行って、時間と天気と体力を見てその先の事は考えよう。」
そう母には伝えておきながら、天気さえ良ければ絶対登らせたいとひそかに息巻いていた。
「どうしても登らせてやりたいという思いが強すぎて冷静に判断できないから、ようこがブレーキ役になって慎重に判断してね。」、トレック前夜、ようこにそうお願いした。
僕が先に行くべきか、母の後についていくべきか、中間地点には何時までに着けばいいのか、いろいろシミュレーションを繰り返しながら眠りにつき、
夜、セアリーターンズに大幅に遅れて到着してしまってその先に登れない、という夢で目が覚めた。


後半戦はガレ場や岩場のアドベンチャールートが続く。

当日は晴天なのに太陽は微妙に雲に隠れているという絶好のトレッキング日和だった。
天気までが母と僕の思いをサポートしてくているようで、勇気づけられる。
トレックルート前半は、約1800段の階段という思いもかけないルートだった。
階段を登るのは、自分の歩幅と&ペースで歩けないせいで山道以上に疲れる。それでなくても階段は苦手と言っていた母には厳しい道のりだけど、それでも標準タイムを上回るペースで登りきった。
そしてセアリーターンズで、ようこが朝早く起きて準備してくれたおにぎりを頬張る。
ここでも十分に素晴らしい風景だったけど、母はまだまだ余裕な表情だし、時間も十分にある。
「じゃあ、行ける所まで行ってみようか。」

後半は予想を上回るアドベンチャーなルートだった。
ガレ場、岩場、雪渓、手を使って登る急斜面。
こんな場所に60歳を過ぎた親を登らせる息子夫婦なんて、世の中にそうそういないだろう。
実際、すれ違うトレッカーの中で母が断トツに最年長だった。
ふもとで待機してた父に報告すれば、「そんなのむちゃくちゃだ」と怒られるに違いない。
でもそんなむちゃくちゃな息子夫婦でもいなければ、こんなアドベンチャーはさせてやれない。自転車で世界を旅する息子夫婦を持った親の宿命だと思ってもらうしかない。
頑張って登り切れば、後は僕が担いででも降りればいい。
日本に帰った後、体がバラバラでしばらく歩けなくなったっていい。
めちゃくちゃ大変な分、きっと素晴らしい風景と表現できない気持ち良さが待っているはずだ。
そして母は「こんな場所歩くの初めて!」と楽しそうに、そして逞しくついてきた。


こんなところを登らせるなんて、我ながらむちゃくちゃだ。

そして迎えたゴール。
登っている時には全く見えなかった風景が、尾根の反対側に広がっていた。
視界いっぱいに広がる氷河が、驚くほど近く、大きく、美しく、自分たちの目線と同じ高さに広がる。

「おかあさん、おめでとう!」
ようこが母に抱きついたのを見て、涙が滲んできた。
3年半前の母のやせ細った辛そうな姿を想い、その後の闘病生活を想い、見事に克服した母の強さを想い、NZ旅行を実現できた幸運を想い、全力でサポートしてくれるようこの優しさを想い、涙が溢れてきた。
ようこも泣いていた。母も泣いていた。
そんな二人を見て、さらに涙が溢れてくる。


雪渓を降りる。

素晴らしい一日だった。
そして素晴らしい旅行だった。
両親から受けた愛情の何百万分の一にも満たないささやかな恩返しのつもりだったけど、
逆に両親から素晴らしいプレゼントをして貰った。

そして親子3人旅とはまた違う、親夫婦と僕ら夫婦の4人旅だからこそ、こんなにも楽しく幸せに包まれた日々を過ごせたのだと思う。
この素晴らしい旅を支えてくれたようこの愛情には、本当に感謝してもしきれない。

この先、こんなに長い旅はできないかもしれない。
でもまたいつか、きっとまたいつか、4人で一緒に旅をしよう。

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