Jan,16,2013

「決めた、決めたよ、ひろ」
と顔をニヤつかせながら先を行くひろを追いかけた。
さっきまで息を切らしながら一歩一歩牛のように進んで登った山道を転がるように駆け下りた。
だいぶ先で待っていてくれたひろにやっと追いついて、勢いよく手を握って誓った。
「わたしね、ここにひろと将来の子供たちと必ず帰ってくるからね」

さっきまで絶景のゴーキョ・リから下るのが寂しくて寂しくて仕方が無かったのだけど、
再訪すると決めてからはすっきりして、早くゴーキョの村に帰って「何食べようかなー?」なんて考え始めた自分がおかしい。
私は自分でも可笑しいなと感じるほど感情的なところがある。
体が正直で、好きなときは「ウォー、好きー!!」と体が反応するし、感動するときも体の中でマグマが燃えているのかもと思うくらいドドドと沸くように感動する。
反対に頭ではここは感動すべき場所だと思う時でも、本当に心の底から感動していない時は私の中のマグマちゃんはぐうぐう寝ていて全く動こうとしてくれない。
好き嫌いとか感動したかどうかとかがスーパーなレベルに達すると、体の中の何かが爆発して火がついて、自分でも止められなくなる勢いで何かが勝手に発射する。

自転車で世界を旅したいと思い始めたのは、先に自転車で世界一周をした坂本達さんの講演を聞きに行ってからなのだけど、聞いている途中からモゾモゾしだして、家に帰ったときには発射した。
「ひろ、私たちも自転車で世界を旅する!!」
ドッカーンと自分のなかから花火が出た。
お金のことだとか、将来のことだとか、そういう現実的な問題は全部後回しにして、ドッカーンと派手に打ち上げた。

さすがの私も打ち上げることはそうそうあるわけではない。
でも打ち上げたときは自分でも驚くほどその目標に向かって突き進む。イノシシも驚くほどに突き進む。
そしてここゴーキョ・リでも自分の中から花火があがってくるのを楽しんだ。
私はここに必ず帰ってくる。きっとどんなことがあっても突き進んで帰ってくるはず。

前置きが長くなったけど、それくらいにゴーキョ・リは素晴らしいところだった。
トレッキング途中から飲み続けたダイアモックスを2日前にやめてしまったのが悪かったのか、ゴーキョ・リに登るのは頭がかなり痛くて、足も重くて辛かった。つい3日前に登ったゴーキョ・リ(5360m)よりも標高の高いカラパタール(5545m)の方が何倍も楽だったのは、ダイアモックス様が効いていたからだったのかもしれない。

だいぶ景色もいいし頂上まで登らなくてもいいじゃん、と途中何度も悪魔のささやきが聞こえた。
自分でも驚くほどの遅さでなんとか頂上に着いたものの、頭が痛くて、先に着いているひろを探そうと「ひろー」と呼びながら涙が出た。
「痛いよう、頭が痛いよう。」
ひろを見つけ出して開口一番、「30分以内には下るからね。」(高山病はできるだけ早く下らないとだめだから)と言い放ったら、自分を取り囲む景色に圧倒された。

360度、思い思いに尖った白く輝いた山々と真っ蒼な空で囲まれている。
「うわぁ」って小さく声をあげたら、ひろがぴょんぴょんぴょんと岩を飛び飛び青空のほうに飛び込んでいった。「あははは、小ちゃくみえるな、ひろ。」
すっかり頭が痛いのも忘れて、いや忘れたというか驚くほど痛かったのが消えて、気づいたら1時間が経っていた。
この1時間はなんと2人だけで楽しんだ。エベレスト街道トレッキングの3大スポットのひとつなのに2人占め。
驚くほど静かで、雄大で、ゴージャスなんだけど平穏で。心がすーっと落ち着く場所だった。
もっともっと居たかった。心が体がもっと居たいよと吸盤を張り巡らしてなかなか離れたがらない。
その吸盤をやっとの思いでひっぱり外して下り始める。
こんなに後ろ髪をひかれながら場を離れなくてはならない場所というのはそうそうない。
悲しいな、悲しいなと思いながら下っていると、体からボッボッボッボという音が聞こえてきて、
花火がドドーンと発射した。
ここに帰ってくると決めたら、どうしようもないくらいハッピーになった。

もし私たちに子供が授かってくれたら、次はその子も一緒にやってくる。
私たちの子供に生まれてしまったら、好きとか嫌いとか面倒だとかそういう個人の気持ちは尊重されずに辛い高山に連れて来られることになるんだと思うと、ちょっと可笑しくて可哀想でぷっと吹き出した。
でもね、きっと素晴らしい体験になるからね。
まだ見ぬ未来にエールを送った。




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