Oct,22,2012

スピティバレー、標高4550mのクンズン峠(KunZum La)。
チベット圏にいると段々普通の事になってきてしまうけど、標高4、5000mの自転車で走れる場所なんて世界にそうそうあるものじゃない。富士山より高いのは言うまでもないけど、アルプス山脈最高峰モンブランの山頂ですら4810m、ロッキー山脈最高峰エルバート山は4400mしかないのだ。南米アンデスだと4000m台の道路は沢山あるけど、5000m級となると必死で探さないと見つけられない。
4,5000m級の峠がごく普通にあるチベット圏は、やはり世界的にも特別な場所なのだ。

すでにアンデスを卒業している僕らにとって、
この峠は北インド・チベット圏最後の峠でもあり、そしてこの旅最後の4000m級峠になる。

峠に取り付くまでの道はなかなか面倒だった。
緩やかに登り続ける石ころだらけのデコボコ道が延々と続いている。
しかも道路が崖から流れ落ちてくる川で溢れている箇所がたくさんあって、くるぶしほどの深さしかないとはいえ、この徒渉がうっとおしい。
川にぶつかるたびに靴を脱ぎ、フロントバッグを外し、数秒で感覚が無くなるほど冷たい川をウキャーと叫びながら、まず最初は自転車を押して渡り、次はバッグや靴を取りに戻らないといけない。そして足を拭き、靴を履き、ふうと一息ついてから再びでこぼこ道を走り出す。
難しいわけじゃないけど、とにかく面倒くさいのだ。

まあデコボコ道でもペダルを漕いで走れるだけマシで、自転車を引きずって歩き続けたアンデスの砂道に比べれば「最悪」の称号はあげられないけれど、それでも迷いなく「とってもひどい道だった」と呼べる悪路を、チマチマと登ってきた。
おまけに峠の麓までの2日間は天気も悪くて景色が全く見えないので、テンションは下がる一方だ。

ヒマラヤは僕らに有終の美を飾らせてくれないのだろうか。
そんな暗い気持ちになっていた僕らに、ヒマラヤは優しくほほ笑んでくれた。

峠越えの日は、打って変わったような気持ちのいい天気。
強風が吹いていたけど、九十九折りなので向かい風の時もあれば追い風の時もあって辛く感じない。それよりも、昨日までチラリとも姿を見せてくれなかった氷河をたたえた雪山たちが、今日は目の前にドドンと連なっているのだから、嬉しくてしょうがない。

ゆっくりと時間をかけて辿り着いた頂上。
チベット圏の峠は、世界で一番好きだ。
峠の上にはタルチョ(祈りの旗)がはためいていて、遠くからもあそこが頂上だ、あそこがゴールだと教えてくれる。
青、白、赤、緑、黄の5色の旗が無数にはためく頂上、そこに着いた時の感激といったらない。
しかも最後の峠にふさわしく、クンズン峠の上には豪快にタルチョがはためき、チョルテン(仏塔)が聳え、そして背景には雪山が控えていた。
これが自転車で越える最後のチベット峠かいう寂しい気持ちと、充分やったなあという満足感とが入り混じって、感無量だ。

峠の先、下り道も目が覚めるような素晴らしい風景だった。
垂直に切り立った岩肌、地球の歴史を示す色とりどりの断層、山から流れ出ている淡い色をした土砂、満々と水をたたえて勢いよく流れおちる川。
それらが荒涼とした風景に優しいアクセントを加えている。

いやこれは素晴らしい。スピティバレーの風景は期待以上だ。
素晴らしかったラダック地方を走ってきた直後に、再びこんなにも感動できる風景と出会えるなんて、
北インド・チベット圏の奥深さには、脱帽だ。


© yokoandhiro All rights Reserved. | 管理者ページ