Aug,28,2012

「どうしました?うちの中でも泊まれますよ。お茶も飲みに来て下さいね。」
と学生風の女の子が英語で話しかけてきた。
「大丈夫で、私たちテントを持っているのでそこにテントを張りますから。」
ラダックを走り出して2日目、辿り着いた村に宿がみつからなかったので、通りがかった村人に空き地を指差して「あそこにテントを張ってもいいですかね?」って聞いて了解を得たばかり。
自信を持って「テントを張るんで大丈夫です。」と答えて、女の子の申し出を断った。


ほどなくして、同じ女の子が温かいミルクとビスケットを持って再び現れた。
「どうぞ、どうぞ。」
そのときやっと、私たちがテントを張ろうとしている土地がその女の子の家族の土地であることが分かって、ちょっと恥ずかしくなりながらも、改めて「ここにテントを張らせてもらっていいですか?」とお願いした。
彼女は快く了解してくれた上に「晩御飯はどうしますか?うちの中でも泊まれますよ。」と再び勧めてくる。
これはもしかしてホームステイを受け入れている家(ラダックではお金を支払って民家に泊めてもらうシステムがある)なのかもしれない。お茶もいただいたことだし、テントを張るのにも謝礼を払ったほうがいいのかもしれないと、100ルピーを差し出してみる。
「そういうつもりじゃないんです、歓迎したかったんです。」と言って彼女は顔を赤らめて慌てた。

絞りたての柔らかくて甘いミルクの味と、この女子学生ドルカの優しい気遣いが心地よかった。
なんかこういう風にもてなされるのが久々で、たわいもない会話を楽しみながらじわじわと嬉しさを噛みしめる。


お世話になったドルカは大学生。冬の州都ジャンムーで学んでいるのだけれども夏休みで帰省していた。


のどかな村のように見えるスクルブチャンも印パ停戦ラインのすぐそば。ドルカがすぐそばの山道を指差してパキスタンがあそこから侵攻してきたんだと教えてくれた。

夕食を自分たちで済ませて、テントの中で寝る用意をしていたら、
ドルカが再びやってきて、夜に演劇があるから観に行かないかと誘ってくれた。
こんな小さな村でどんな演劇があるというのだろうか。
真っ暗な中、山道を歩いて丘の上の小さな学校に辿り着くと、この小さな村のどこにこんなに若者がいたんだろうというくらい、小学生から大学生くらいまで100人近くが集まっていた。
その演劇は他の村の大学生たちが、彼らの村のゴンパ(寺)の修復費用を集めるために行っているものだった。
日本の大学生たちとそう変わらない感じの今どきな青年たちが、ゴンパ修復のために活動しているのも印象的だったし、
ヒップホップダンスでも踊りだしそうな彼らが教育番組のような演劇をして、それをまたボリウッドムービー(インド映画)でも見るかのような盛り上がり方で観る青少年観客たちに囲まれて、なかなか面白かった。


気づいたら12時をまわっていて、村にはもう電気はなくなって、外は驚くほどの真っ暗闇だった。
目が少し慣れて空を見上げてみたら、空全てがミルキーウェーかというくらい眩しく星が輝いていた。
懐中電灯で足元を照らしながら、山道を帰る。
大きく深呼吸をして、手を伸ばして「ラダックに来たんだなぁー」と空に飛び込むまねをする。
ドルカが不思議そうにこちらを見る。
「すごい星の数だね、こんなに美しい星空はなかなか見れないよ。」って興奮気味にドルカに伝えるものの、彼女にとってはきっと当たり前のことなので、どれだけ凄いことなのか分からないのだろうなと思う。
翌日は彼女が村のゴンパを案内してくれて、チベタン風朝食もいただいてすっかりお世話になった。


左からバター茶(塩バター味)、タントゥ(ヨーグルトに野菜が入ったもの)、ツァンパ(奥の大麦の粉とバター茶を混ぜてつくる。見かけによらず美味い!!)

自然に魅せられてやってきたラダックだったけど、
人々との出会いも楽しい旅になりそうな気がしてきた。
ドルカ、ありがとう。


荒涼とした土地に突然緑が現れるところが村。10~20km毎に突如オアシスのように現れる。


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