世界には「○○のヴェニス」と同じくらい、「△△のスイス」と呼ばれる場所が沢山ある。
そして「△△のスイス」は、雪山があって、湖があって、アルプス調の建物があってと、だいたい似たような雰囲気の場所が多い。
それに、小さいころから写真や映像で見続けてきたスイスの風景。
知らず知らずのうちに、僕の中でスイスのイメージはばっちりと固まっている。
それをいい意味でも悪い意味でも裏切るようなモノには出会えるんだろうか。
鏡張りのマッターホルン。
スイスの走行は雨に打たれることが多かったけど、ツェルマットやグリンデルワルドといった観光地では快晴に恵まれてハイキングを楽しむことができた。
スイスはとても観光がしやすい国だ。
狭い国土に張り巡らされた正確安全な交通網、観光地にはゴンドラやケーブルカーが同じく縦横無尽に張り巡らされていて、標高3800mくらいまでならあっという間に到達できてしまう。
そして綺麗に整備されたハイキングルート、分かりやすく快適なサイクリングルート。
グリンデルワルドのハイキング。
年齢や体力や時間や装備に関係なく、誰もが気軽に、素人では到底行けないような絶景スポットまであっという間に到達できて、そこからの景色を心ゆくまで堪能することができる。
これなら両親だって、おばあちゃんだって、幼稚園前の姪っ子だって、気軽に連れて来て一緒に楽しむことができる。
これは清潔でオーガナイズされたヨーロッパだからこそ可能な、本当に素晴らしいことだと思う。
そしてそんな風にして気軽に見に行くものが、マッターホルンやアイガーといった世界の名峰ばかり。
なるほど世界中から観光客が押し寄せる訳だ。
でも僕らみたいなバックパッカーには、意外と中途半端なデスティネーションかもしれない。
スイスの景色はポストカードのような素晴らしい風景だけど、
正直、期待以上でも期待以下でもない、「ああスイスだなあ」という景色だった気もする。
そして「ちょっとだけハードなトレッキング」が好きな僕らにとっては、スイスのハイキングはあまりにも簡単すぎて物足りない。
やっぱり、少しくらい(あくまでもほんの少しだけ)大変な思いをして辿り着いた景色の方が、ガツンと心に響くのだ。
ヘリコプターでエベレスト山頂に降り立ってしまったような、そんな気持ちに似ているかもしれない。
そんな風にひねくれた思いを抱いてしまうのは、これまで世界中の絶景を見続けてきた「贅沢病」なんだろうか。
そんなスイスの旅は、期待を裏切るような出来事もなく順調に過ぎていく。
ツェルマットでマッターホルンを仰ぎ見て、グリムゼル峠を越え、グリンデルワルドでアイガーと対峙し、友人の待つフリブールへ。
一番印象に残った事は、マッターホルンやアイガーへ登りに行くクライマーたちのことが強烈に羨ましく思えたことだ。
ハイキングルートや展望台で景色を眺めては、これからマッターホルンに登りにいくクライマーが、
「まあ、ハイキングはあくまでもハイキングの域を越えないから。」と言っていたのをしきりと思い出して、「自分もあそこに登ってみたいなあ」という気持ちがどんどん膨らむ。
本格的な雪山登山を一度もしたことがないド素人が偉そうだけど、
マッターホルンやアイガーは、僕にとって「見る山」じゃなくて「登りたい山」なんだろう。
次にスイスを訪れる頃には、なんちゃってクライマーになっていたりして。