Jan,28,2012

時速15km、10km、8km、5km。
メーターが壊れたのかと思うほど、どんどんとサイクルメータが表示する数字が小さくなってくる。
「あれ、これパタゴニアと一緒じゃない?」
人生最強の暴風は、ものの10分くらいの間に時速20kmほどから時速3kmくらいまでしか出せなくなったパタゴニアでの体験。
そう、それに似てるんだ。

まっすぐの美しい舗装路、標高は1500mほど。
風さえなければ時速25kmは堅い。
追い風なんて吹いてくれれば時速30km越えも楽勝。
そんな道で時速5kmを切ったときの絶望的な気持ちはなんと表現したらいいのだろう。
もう午後3時だというのに、今日はあと60kmほど走らないと村はない。
アップダウンもないし、舗装路だし、今日は110kmくらい余裕で走れるだろうと計算をしていて、ちょうど半分過ぎたあたりを走って、そろそろ昼ごはんにしたいなぁと思っていたところに強風が吹き始めた。
昼ごはんを食べようにも風よけになる木も建物もない大草原。
参った、こりゃー参ったよと思いながら、重いペダルを押す。
風は容赦なく体の熱を、エネルギーを、パワーを奪っていく。
しおれたモヤシのようになりながらも、なんとか前に進む私たち。


やっと数キロ先に民家が見えた。
あの民家の壁を風よけにさせてもらってお昼ごはんにしよう。
ご飯を食べればもう少し力強く前に進めるはずだ。

いざ着いてみたら民家は廃屋のようだった。
カピカピのパンや、羊の毛やら、汚い服が転がっているものの、比較的綺麗な小屋で、中に入ると体に冷たい風が当たらなくてホッとした。
壁を打ち付ける風の音はするけれど、ずっとゴウゴウ、バタバタと風の音を聞きながら走っていたので、静かな小屋の中は安心した。


ご飯を食べて一息ついたところで、ひろが「今日はここで止めて、明日早朝に出発したほうがいい」と提案してきた。
風は午後強くなることのほうが多くて、朝は止んでいることがほとんどだ。
明日の昼まで水が持つかはギリギリだけれども、風さえ止んでいれば次の村まで2,3時間で着く。
今この小屋を飛び出して60km先の村へ向かっても、恐らく夕暮れまでに村に着くことは不可能だ。
再び野宿恐怖症に戻ってしまった私だけれども、これはどう考えてもこの廃屋に泊まるべきで、なんとか自分を納得させようと思っていたところにゴロゴロと雷も鳴り始めた。
真っ黒な雲、爆風、稲妻。
嵐がやってくる。
外の様子を見にいこうと一歩小屋から出ると、前髪が一瞬でオールバックに吹き飛ばされた。
これはここに泊まるという選択肢しかない。


風は関心するほど強烈に吹き続ける。
雨は思ったほど降らないけれども、不気味なくらい黒い雲に覆われて世の中は真っ暗で、屋根の穴から、壁の隙間から鋭い稲妻の光が漏れるのが怖い。
寝袋に入り、頭の中で周辺地図をおさらいする。
今なら目指す峠の麓フィアンバラではなくて、メンドーサとかカタマルカとか大きい都市に進路変更できる。いや、バスにだって乗れる。
バスに乗ったら1日でメンドーサだよ。


そもそもカファジャテで丸5日休憩して、体の疲れはすっきり取れたけれども、心がなんだか休憩しきれていなかった。
カファジャテを出て1日目も暑くてバテてしまったのもあるけれど、二人とも夜ご飯を食べる気力すら出ずにビールでひたすら体を冷やして、やっと冷静になって食べなきゃバテると無理やり食べたくらいだった。
もちろん気力もでない。
そして2日目のこれ。もうすっかり弱気になってしまって、くるっと180度回転して、追い風に乗って来た道を戻ってしまいたいとすら思った。
「メンドーサまでバスに乗ろうよ。もうアンデス越えはやめちゃおうよ。」
何度も喉まで出かかった。
ひろも同じ気持ちだったと思う。
それだけに今これを言ってしまったら二人ともプチっと切れてしまって、冷静にはなれずに「そうだ峠越えはやめよう!」と決断してしまいそうで、口を開いたら「止めよう」と言ってしまいそうで、
二人とも寝てはいないのに押し黙っていた。


結局風や雷が気になって明け方まで寝れなかった。
寝付くまでも風が壁をたたきつける音が常時響いていたけれども、結局朝起きてみてもその音がほんの少しマシにはなっていたけれども響いていた。
あれれ、朝から強風吹いてるけど、、、。

それでも不思議なもので、寝て起きるともう少し頑張ろうかなと思ったりできる。
Sleep on itとはよく言ったもので、
一晩寝て考えるっていうのは大事だなぁとしみじみする。
そして今日も漕いでいる。

ボロボロになって到着した次の町ベレンは思いのほか大きな町で、12月24日土曜日の午後なのにスペシャルでスーパーが開いていた。(普通アルゼンチンの田舎は土曜日の午後、日曜日は完全にクローズ)
スーパーマーケットなんてサルタ以来の3週間ぶりくらいで、田舎のちっちゃいスーパーマーケットなんだけど、それでもすっかり興奮してしまった私。
サンタさん、グラシアス!
せっかくスーパーがあっていろいろ買えるし、クリスマスだし、宿もいい感じだし、昨日はお疲れ!ということで、ベレンに連泊することにした。
ふぅ、今日も肉が美味い。


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