Jan,25,2012

ボリビアのラパスを出てから1か月半、私たちにしては驚くほどハードな走行が続いた。
私たちは冒険家タイプのサイクリストではなくて、旅を楽しみたいサイクリスト。
敢えてハードなルートを選択したり、人があまり開拓していないルートを選ぶことに喜びを感じたりするタイプではない。
綺麗で走りやすい舗装路を走りたいし、水や食料が手に入りやすい楽で安全なルートを選びたい。向かい風なんて大っきらいだし、寒すぎたり暑すぎたりのエクストリームも好きじゃない。
でも、
でも、
美しい景色は見てみたい。


その結果、ひどい未舗装路で砂まみれになり、ひもじいご飯で我慢をし、強風に泣きそうになる日々が続いた。
深い砂道を、1週間分の食料や水を搭載したいつもより格段に重い自転車を引きずりながら「私はこんな旅をしたかったのか?」と自問することもあった。
追い打ちをかけるように強風が顔をバシバシと打ちつけるように吹いてきて、うつむきながらトボトボと自転車を押す姿は自分で自分がかわいそうになるくらい惨めだったりもした。

飴と鞭。

一山越えて開けた景色に全ての辛さが吹っ飛ぶ。
ここは地球なのか?と疑うほどの美しい景色が目の前に広がって鳥肌が立つ。
言葉では表しきれないほどの、写真では表現しきれないほどの絶景に、心が震える。
嬉し涙が体中の毛穴から溢れ出てくる感じがする。


そして再び悪路に戻る。
1週間分の食料を携帯するのだから食事は限りなくシンプルなものになるし、来る日も来る日も同じようなエサのような食べ物を食べる。
水の使用は最小限に控えるので、どうしてももう少し飲みたいなぁという気持ちがいつも残る。鍋や食器類はトイレットペーパーでふき取るだけなのでどうしても汚い感はぬぐえない。
顔や手の汚れもウェットティッシュでふき取るだけなので、毛穴やつめの間にどんどん汚れがたまってきて黒ずんでくる。
ひとつひとつはちょっとしたことだけれども、一週間もしてくるとストレスが溜まってくる。
そこに来て酷い道になったり、爆風にたたきつけられたりすると、心がポキッと折れてしまいそうになる。


だいたい1週間に1回はそれなりの村に到着できて、宿に泊まってシャワーを浴びて、野菜類をたっぷり取って、ビールやワインをグイっと飲んでベッドの上で寝れるのだけれども、
この休憩が思っている以上に大切。

サルタで出会ったスイス人カップルは2年ほど世界を走っていて、このあとパタゴニア地方を目指して走っていたのだけれども、サルタ直前のシコ峠でとうとう心が折れてしまってパタゴニアは諦めてスイスに帰る決断をしたところだった。
ボリビアから続いた酷い道や環境にぐったり疲れてしまった上に、休憩を入れるタイミングを失ってしまってクッタクタになってサルタにやってきた二人は、サイクリストの憧れの地パタゴニアを前にスイッチがすっかり切れてしまっていた。
私たちと会う直前も帰国のエアチケットを探していて、もうあと一歩でチケットを買うところだった。

「ここまで来てパタゴニアにいかないなんて、もったいないよ。」と何度も喉まで出かかったけど、
彼らだって今まで沢山のサイクリストからパタゴニアの夢のような話を聞いてきただろうし、
さぞかし素敵なところだと写真などを観て期待を膨らましてきたに違いない。
頭ではここまで来てパタゴニアに行かないなんて、そんなもったいないことはないって、絶対に思っているはず。
それでも、もう辞めようと決断してしまったほど疲れているんだ。
「パタゴニアに行かないなんてもったいないよ」なんて話はよしにして、
私たちと一緒だった2日間は、出来るだけあまり先のことは考えないで、楽しくご飯を食べてお酒を飲んで、お喋りしたり洗濯物でもして、とりあえずリラックスしよーぜー!とゆるゆるムードで盛り上げた。


彼らと別れてから数日後、嬉しいメールが来た。
「パタゴニアに向かうことにしたよ。」
人ごととは思えないくらい嬉しかった。
そしてしばらくして彼らの通ったハードなシコ峠で自転車を押しながら、より彼らの気持ちが理解できた。そりぁ心が折れるわなぁ。

それほどにボリビア、北部チリ、北部アルゼンチンの道はハードだった。
でもそれ以上に本当に素晴らしい場所でもある。
カファジャテで大きな休憩を挟んだ今、悩みに悩んだ結果、私たちは再びアンデスを越えようとしている。
もう爆風も未舗装路もうんざりなのだけれども、
それでもアンデスの山の上の特別な景色をもう一度見てみたい。
もう一生見れないのかもしれないと思うと、もう少し頑張ってもいいかなと思う。
中毒になるほど素敵なところなんです、アンデス。



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