Jan,19,2012

シコ峠を越えてサンアントニオ・デ・ロス・コブレスという大きめの村に到着し、念願の丸一日休憩日を入れた。
人口5000人くらいの村なんだけど、それでも野菜も肉もワインもちゃんと手に入って、きれいな宿でのんびりと快適に休憩ができるのが、アルゼンチンとボリビアの大きな違いだ。

しばらく自転車を漕ぎ続けた後に、こうやって丸一日何もしないで宿でのんびりする日があると、
2,3日連続で休憩したんじゃないかと勘違いしてしまうくらい、長い休憩を取って心身ともにリフレッシュできたように感じられる。
同じ1日何もしない日であっても、これが無意味に何日も宿でウダウダしている時だったら、あっという間に過ぎ去って今日も一日を無駄にしたと感じてしまうのだから、人間の感覚って不思議だ。


風で倒れたのか、この看板?

気を取り直しての再出発、向かうは標高4895mのアルゼンチン道路の最高到達点、アカイ峠だ。

アンデスの峠って、その道中は自分のイマジネーションの領域を遥かに超える美しい風景が続いているのだけど、峠そのものにはがっかりすることが多い。
そもそも頂上付近になると細かいアップダウンが始まって、どこが頂上だったのか良く分かない。
「頂上です!」という看板があることも少ないし、峠の前後で風景が劇的に変わることも少ない。
なんか達成感がないというか、あれ、峠は終わっていたの!?と拍子抜けすることが多いのだ。

その点、チベットの峠は分かりやすくて大好きだった。
峠には必ずタルチョという祈りの旗がカラフルにはためいているので、一目でここが頂上だ!と分かるのだ。延々と続く九十九折のその先にタルチョがチラリと見えた瞬間なんて、涙が出てきそうになるほど嬉しくなったものだ。
やっぱり峠というからには、「ここが峠です。」という分かりやすいゴールを作って欲しいと思うのが、ひとつの峠に6時間も7時間もかけて登るチャリダーの共通した願いだと思う。


逆から登ってきたらさぞかし大変だっただろう。道幅も狭いし、かなりの悪路。

でもアカイ峠は、南米に来て初めて「これが峠です!!」ムード満載の登りがいのある峠だった。
標高4895mと聞いていたのに、登ってみれば結局標高は4965mだったこの峠。
今回の旅の中では自転車による最高到達地点だ。
頂上にはちゃんと立派な看板が建っていて(やっぱり標高4895mと書いてあった)、そしてその看板を吹っ飛ばすくらい凄い勢いの強風が吹き荒れていた。
そして嬉しいサプライズ。峠の先には素晴らしい別世界が広がっていたのだ。


ちょっとよそ見すると落ちそうになって怖い。あまりに美しい山肌に思わずブレーキの手も緩みそうになる。

まず目に飛び込んできたのは「黄色」だ。
峠の先には狭い谷が広がっていて、その谷の斜面の枯れ沢を、美しい黄色をまとった植物が美しく染め上げていた。
ずっと赤茶けた砂の世界にいたので、自然界が作り上げた黄色なんて何日ぶりに目にするのだろう。
なんて新鮮で、そして美しく見えるのだろう。

そして「ピンク」。
山肌がビビッドだけど優しいピンク色をしていて、それが頬紅のように谷を華やかにしている。

さらに視線を下に向けていくと、谷底には鮮やかな「緑」が敷き詰められていた。
おお緑だ!こんなにも標高が高い場所に、かくも鮮やかな緑色だ!


目の前に野生のリャマの群れ。

こんな辺鄙な場所にこんなにも鮮やかな色の世界があるなんて。
緑豊かな渓谷の風景とも違う、赤茶けて別の惑星みたいだったアタカマ高原の風景とも違う、
両方の一番素敵なところをこんなに素敵に、ドラマティックに見せてくれる。
これこそアカイ峠の素晴らしいプレゼントだ。
やっぱり峠ってのはこうでなくっちゃ。


これがかの有名なルタ40(チェ・ゲバラが走った道)なのだけど、これって車は通れるんだろうか?と思ってしまうような小さな国道。

登り道よりも格段に道の状態が悪い九十九折&断崖絶壁の下り道を、崖から落ちないようブレーキを握りしめながら、ゆっくりと下っていく。
天気は相変わらずどんよりしていて残念だけど、ひょっとしたらこんな曇天だったからこそ、あの黄色や緑やピンクが余計ドラマティックな形で目に飛び込んできたのかもしれない。
そう思うと曇り空ですらアカイ峠の粋な演出に思えてくる。


廃屋の中にてキャンプ。壁があるだけでかなり暖かい。

その日は下り道の途中で廃屋を見つけてテントを張った。
早速、隣を流れてた小川で、手と顔と足を洗う。
色が豊かなことに続いて、小川が流れている事にすら、いちいち感動する。
なにせここ数週間、野宿時の「水」といえば、自分が自転車に積み込んでセッセと運んできた僅か数リットルの水以外には存在しなかったのだ。
絶え間ない流水で手や顔を洗うだけでも、ああなんか俺ってきれいかも!と満足している僕。

色があることや水があることが素晴らしい事だって気がつけるのも、こういう辺鄙な場所を旅する自転車旅の宝物の一つなんだろう。
でも下界に降りてくると、そのありがたみをすぐに忘れてしまうのがもどかしい。


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