Dec,18,2011

「ああ、もう駄目だ。」と思わず自分のスイッチを切ってしまおうかと思ったところで我に返った。
こんなところで動けなくなったって誰も助けてくれやしない。
朝から一台も車も人も見ていない。
なんとか頼りにしている自動車の轍だっていつのものだか分からないくらい前のものっぽい。
こんなところで倒れたって発見されるころには干し物にでもなってるだろう。

コイパサ塩湖のスタートは良かった。
柔らかめではあったけれども、昨日道なき道を進もうとしたときのドロ沼のような表面とは違ってスイスイと進むことができた。
くるっと360度真っ白な塩で囲まれる。
凄いけど、でも飽きるまでに10分もかからなかった。
それよりも照り返しが厳しくて、暑いし眩しい。喉が異様に渇くし、平坦だけれども思うようにスピードが出せないし、何よりも進んでいる感覚が全くないのでイライラする。
せっかくだからと記念撮影などを一通りした後は、二人ともただ黙々と前を見つめて修行のように漕いだ。
それでも最初の10kmくらいは順調だった。表面の凸凹も少なかったし、柔らかいといっても今まで通ってきた砂地よりもよっぽど走りやすかった。
あと2時間もすれば塩湖を抜けられると確信しながら黙々と足を動かしていた。


コイパサ塩湖は真っ白だった。この後走ったウユニ塩湖よりも目が痛くなるほど白い。

日がどんどん高くなってきて、暑さも絶好調になってきたころから、
塩湖の表面が思い思いの形の堅い結晶で埋め尽くされてきて、川床のように細かく凸凹してきて、漕いでも押しても変わらないスピードしか出せなくなってきた。漕いでいると体全体がものすごい振動で揺れて気持ち悪くなるほどで、自転車に積んだ荷物も今まで経験したことがないくらいに小刻みに激しく揺れるものだから、漕ぐのが大変なだけでなくて乗っているのも辛い。
押すのは押すで自転車は重いし足元は悪いしハンドルを握る腕はしびれるしで、何よりもあと20km以上を押すのかと考えるだけで気がめいってしまう。
二人とも乗っては押してを繰り返すけれども、私とひろの距離は格別広がらない。
押しても乗っても時速3、4kmぐらいがせいぜいで、いったいあと何時間これを続けなくてはならないのかと考えるだけでも眩暈がした。
それに暑いうえに塩湖がガタガタで濡れているために座って休憩すらできないのも辛いところだった。


時期を選べばもう少しマシだったかもしれない。塩水でビショビショ、結晶でガタガタ、サングラスをかけていても目がほとんど開けられないほどの眩しさ、ハードだった。

「これは地獄だ」
きのうの砂地の道も大変だったけれども、「大変」の域は超えていなかった。
今日の道は地獄だ。
砂道のほうが100倍いい。


湖面を蹴るとシャリシャリっと綺麗な音がする。でもそんな音を楽しんでいる心の余裕なんて全くなかった。

なんとか気力で塩湖を抜けた。
陸地が遠くに見えて始めてからいったい何時間経ったのだろう。
とうとう砂にめぐりあえたとき、涙が出てきたくらい嬉しかった。昨日まではあんなに憎らしかった砂が頬ずりしたいくらい愛おしかった。
砂地も相当暑かったけれども、照り返しがない分だけ涼しかった。

走り始めたら、塩湖より100倍マシだと思った砂道も10倍くらいしかマシではなかったけれども、
それでも異常に疲れすぎてしまったからか、妙なハイテンションで砂道をかっ飛ばした。
途中で小さな沼を見つけた。汚いけれども真水だったので、塩まみれになった自転車やバッグを洗ってあげて、本日のエネルギーは全て使い果たした。


塩まみれのあわれな愛車。もちろんバッグも服も塩まみれ。


砂漠だって暑いのだけど、塩よりもマシ。

道から外れた小さな岩陰の砂地にテントを張り終えたら、長かった一日がやっと終わった。
「疲れた、ああ疲れた。」と二人してブツブツと呟いた。
とっておきのホットチョコレートが体をじわじわと緩ませてくれるのが分かる。
これまたとっておきのツナ缶と、コイパサ村で買い込んだ玉ねぎをふんだんに使って、ツナサラダを作って晩御飯を豪華にする。
二人の顔に少しずつ笑顔が戻ってきた。

地獄の経験も二人だからいつか笑える日が来る。
あの後に飲んだホットチョコレートの美味しさや、ツナ缶が豪華だって思ったことなどが
優しい気持ちにさせてくれる日がきっと来る。
爆風の音もものともせずに一瞬で眠りについた。

さてウユニ塩湖は天国となるか?


汚い沼だったけれども地元民も水を汲んでいた。真水のお陰で自転車やバッグが生まれ変わった。この水が発見できなかったら、自転車はどうなっていたのだろうか。想像するだけで恐ろしい。


長かった一日も終わった。

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