
「はぁ、はぁ、ふぃーーー」
標高はまだ3000m前後なのに息が荒れる。
4泊5日分の荷物がずっしりと体に圧し掛かってきて、思ったよりも足取りが重い。
でも嬉しい。
日帰りじゃなくて、これから5日間も山の中に居られるんだと思うと自然と顔がほころんでくる。
一日目は標高2800mから3800mまで。思いのほかあっという間に1日目のキャンプサイトに到着してしまったけど、高度順応のため今日はここで終了。
向かう先の峠の方向にはグレーの雲と雨のカーテンが見える。
都合のいい天気予報によると、明日からのほうが天気が好転するはず。たのむよー、ワラコ。

川の水で顔を洗い、川の水で調理して。そんなシンプルなことが久々で嬉しい。
パスタにトマトソースだけかけた超シンプルスパゲッティなのに、
高度が高くてうまく茹でられなくて回りはグチャグチャなのに芯は残っていたりするようなどうしようもないスパゲッティなのに、
「美味しいね」っていいながら食べる。
家でこんなもん出したらちゃぶ台飛ぶよ。
「そういえば、明日結婚記念日だったね。でも明日のディナーもこのシンプルスパゲッティだね、あははははー。」
なんかちょっぴり気の利いたものでも持ってくればよかったかなと思ったけど、取り巻く環境が十分気の利いたものだもの、それでヨシ、それでヨシなのだ。

二日目は4200mのキャンプサイトまで。途中アルパマヨベースキャンプに寄るコースを選ぶ。寄り道にまで大きな荷物を持っていきたくはないので、分岐にあるキャンプサイトに一度テントを張って荷物を置いて登る。荷物から解放されるとすっかりと身軽になる。自分は身軽になって楽なんだけど、こんどは置いてきた荷物が盗まれないかしらと心配する。物を所有するというのは楽なことじゃないって思う。

夕方になってすっかりと天気が崩れてきてしまって、キャンプサイトに着くころには雨が降り出してきてしまった。慌ててテントを張る。
そういえばこの三年間雨が降っている中でテントを張ったことはなかったっけな。今までラッキーだったんだなぁ。
結婚記念日の今日、雨の中のテント張りで夫婦の息ぴったり度を世の中に見せつける出番がやってきた。誰も観客はいなかったけど、なかなか素晴らしいチームワークで被害を最小限に抑えて温かいホームが立った。微笑ましい夫婦共同作業でしょう。
でも標高4200mで慌てると、慌てているときは気づかないんだけど、そのあとでどーっと疲れがくる。
気圧も低いからすぐに眠くなってしまうのだけど、夜寝るまでは寝たらだめ。寝てしまうと呼吸が浅くなるので体内に酸素がより取り込めなくなってしまうらしい。
頭はぼーっとするのに寝たらだめ、雨が降っているから外にも出れないという状況は意外と辛い。テントの中で2人ひたすら水分を取り(高山病対策としては一人一日3L飲むといいらしいけど、3L飲むのは結構大変)、呼吸を整え、ぼーっとするを繰り返して時間が過ぎるのを大人しく待つ姿は本人たちは真剣だけれども滑稽だ。
何せ頭がぼーっとするので、日記を書いたり気の利いたおしゃべりをするのも億劫なので仕方がない。

やっと晩御飯の時間がやってきて、何か作業ができるということが嬉しい。
昨日と同じパスタを食べ、食器を洗い、歯を磨き、待望の睡眠時間がやってくる。
外はまだポツポツと雨が降っていて、周りも真っ白の雲で覆われている。
明日はこのトレッキングの一番のハイライトの峠越え。どうか晴れますようにと祈って寝袋に入る。
あんなに寝たかったのに、いざ寝ようとすると息が荒れて寝付けない。それに頭痛もひどくなってきた。
息を整えて水を飲んでは寝ようと試みるけど、今度は水を飲み過ぎてトイレに行きたくなっちゃったりして、そしてまた目が冴えてしまっての繰り返し。普段目には見えていないけど、酸素さまのお陰で楽に生活できているのねと感謝。

いつの間にかに疲れ果てて寝ていて、トイレに起きたのが夜中の1時。
寝袋に入っていると温かいのだけど、出るのがとても嫌になるからいつもどうしてもトイレを我慢してしまって2,3度トイレに行く夢をみたりしてからとうとう寝袋からモゾモゾ出る。
ヘッドランプをつけて重い腰をあげてテントの外に出てみたら、
眩しいまんまるお月さまが深くて碧い碧い空に美しく浮かびあがっていて、私たちのテントはくるっと360度美しい山々に囲まれていた。
満月だ。
空気が澄んでいるからか満月の光が蛍光灯のように鋭く眩しい。
光が信仰に使われる意味がよく分かる。光とはなんと美しく神秘的なのだろう。
ちょっぴり時間が過ぎてしまったけど、素敵な結婚記念日が迎えられた。
大満足で2人寝袋に戻る。
明日は天気になりそうな気がしてきた!




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