Mar,29,2011

南米最南端の街、“世界の果て”ウシュアイア。
アラスカからアメリカ大陸を縦断して来たチャリダーにとって、終着地となるこの街の名前は、果てしなく遠く、そして特別な響きを持っているに違いない。
パタゴニアだけしか走っていない僕らですら常にゴールとして目標にしてきた街だったから、ウシュアイアに到着した時にはさぞかし感動するんだろうと思っていた。
でもウシュアイアが近づくにつれて、僕の中に湧きあがってきたのは感動ではなく、寂しさと切なさが混在したなんとも言えない感情だった。

ついにパタゴニアの旅が終わってしまう。
パタゴニアが終わってしまうのだ。


地の果てを感じたフエゴ島。

毎日がWOW!の連続だった。
12月始めにLa Ruta de los Siete Lagosを走り出した時は、これはいきなりベストルートじゃないかというくらい楽しくてしょうがなかった。
それから約3か月。あれがたった3か月前の出来事だったのが信じられないほど、毎日のように興奮し、感動し、ベストルートが更新される日々だった。

自転車旅は、時に人との触れ合いだったり、時に大自然を独り占めすることだったりと、走る地域によっていろんな楽しみができる。
パタゴニア地方には、イスラム圏のような地元民とのディープな触れ合いは少ないし、シルクロードのような悠久の歴史もなく、アフリカのようにカルチャーショックを受けることも少ない。中米のように右脳を刺激するアートな雰囲気もない。
でもこの地方には、有無を言わせない圧倒的な大自然があった。

湖水地方で足慣らし程度の気持ちで歩いたバリローチェの山々やコチャモバレー。
本格的なパタゴニア地方に入る前に、美しすぎる大自然にノックアウトされそうになった。

そしてカレテラ・アウストラルでの最高の日々。
自己満足かもしれないけれど、バイクや車ではなく、自転車のスピードがこれほど似合う場所もない。
治安や食料といった自転車旅の不安な面は全て排除して、綺麗な景色と完璧なアウトドアライフという自転車旅の楽しいところだけを抽出したような、楽しくて美しい街道。
こんなにも、自転車で旅をしていてよかったと思える街道は他にないんじゃないかと思ってしまう。


360度ぐるっとなんにもない、強風が吹きさらしてある地にあった小さな小屋でテントを張った。ありがたい存在。

カレテラ・アウストラルを終えた僕らを、フィッツロイが圧倒的な存在感で待っていてくれた。
あの朝焼けは今でも心から離れない。
僕らの心の一番奥底を刺激し、いつまでも忘れることができない光景。
あの風景に出会えたという事実が僕をいつでも勇気づけてくれる。そんな光景だった。

そしてペリトモレノ氷河の蒼。
世界にはまだまだ想像を絶する美しい風景が沢山あるんだよって、あの蒼は優しく語りかけてくれた。

パイネ国立公園では、想像以上に観光地化された姿に、戸惑い翻弄され続けた日々だった。
そんなことは気にせずにパイネの美しさを純粋に楽しめれば良かったのに、その心境に達するにはまだまだ僕は幼すぎたようで、それがせっかくのパイネの姿を曇らせてしまったのかもしれない。


人よりもグアナコの方が多い。

そしてフエゴ島で出会ったキングペンギンのコロニー。
今はまだチャリダーやライダーだけの特権となっているこの場所は、パタゴニアで奮闘してきた僕らへのご褒美のようだった。

そして今、約3000kmのパタゴニアの旅を終え、世界の果てウシュアイアに到着した。
毎日のように一大イベントが目白押しで、体を休める時もなく、感動をゆっくり消化する時間もないくらい、心を全開にして走り抜けた3か月間だった。

ああ、本当に楽しかった。
パタゴニアを終えた今は、しばらくは気が抜けてしまいそうだ。


強風によって癖がついてしまった木


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