Mar,26,2011

ウシュアイアまで残り100kmの所にあるTolhuinという町。
その町には、チャリダーを無料で泊めてくれることで有名なパン屋さんがある。

パン屋に到着して驚いた。
人通りの少ない町なのに、そのパン屋の前ではお祭りか?というくらい人が溢れかえっている。
次から次へと車が到着し、人々は行列を作ってパンを買い求めている。
僕らが見た限り、パタゴニア地方で間違いなく一番混んでいる店だ。
予想外の光景に戸惑いつつ、隙を狙ってお店の人に“チャリダーなんだけど・・・”と恐る恐る伝えると、“みなまで言うな”という顔で頷いて僕らを離れに通してくれた。


焼き立てのチーズ入りパン、チーパン。うまーい!

そこは素敵な空間だった。
パン工房の裏にある、CASA DE AMISTAD(友情の家)と名付けられたその部屋には、きちんと掃除された部屋の中にベッドが置いてあり、トイレやホットシャワーまで使わせてくれる。
あいにくオーナーは不在だったのだけど、代わり僕らを世話してくれたのはパン工房でせっせとパンをこねていたおばちゃんだった。
目じりの垂れた温和な顔をしたおばちゃんは、僕らを見るや“お腹空いたでしょ、さあ”とオーブンから焼き立てのパンを出して振る舞ってくれた。
そして、“美味しいでしょ?コーヒーと一緒に食べるともっと美味しいのよ”と、仕事そっちのけでお湯を沸かしてコーヒーまで出してくれる。
温かいシャワーに温かいコーヒー、出来たてのパン、そして温かいおばちゃんの笑顔。
心がジワーッと溶けていく。


合宿のようにワイワイ。コロンビア人のカルロスとカナダ人のナット。

おばちゃんは優しい顔でいろいろ話しかけてくれる。
こういう時、スペイン語がもっと喋られたらと願う。
長いことスペイン語圏を旅しているので、生活するのに最低限必要な事は伝えられるようになったし、相手が何を言っているのかも何となく分かるようになる。
人と会話をしている時は、相手の表情とか仕草とか声のトーンなどからほとんどの情報を得ていて、発せられる言葉そのものから読み取っている情報は10%もないのだと、ある本で読んだことがある。
確かに、片言の単語を連発するだけの僕らの怪しいスペイン語でも何となく会話は成り立っている。
でもそれにも限界がある。
サイクリストというだけで、こんなにも無償の愛情を注いでくれるパン屋の人たちが、どんな風に考えて愛情を注いでくれているのか、僕らサイクリストをどんな風に見ているのか、どんな思いでいるのか。
スペイン語が喋れたら尋ねてみたいことはいっぱいあるのに。そしてもっと感謝を伝えられるのに。
せっかく優しさを学べるチャンスが目の前にあるというのに、いつまでも片言でお茶を濁しているだけじゃ成長がないなあ。


朝から焼き立てパンで満足。

僕らが泊まった日は、合計4人のサイクリストがこの友情の家にお世話になった。
温かい空間は、人を温和にする。
ただでさえサイクリストというだけでシンパシーを感じるのに、この空間に感謝して心が温まっている人たちが集まっているのだから、あっという間に打ち解けて楽しい時間を過ごした。

翌朝も出来たてパンとコーヒーを振る舞ってくれた。
離れがたい空間を離れ、ウシュアイアに向けて小雨が降る外の世界に再び飛び出す。
残るはあと1日だ。


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