Mar,14,2011

ずっと楽しみにしていた10日間のパイネ国立公園(Parque NacionalTorres del Paine)のトレッキングが始まった。比較的多くのトレッキングをしてきた私たちだけど、10日間のトレッキングはネパールのアンナプルナサーキット26日間に次いで2番目に長いトレッキングになる。
ネパールの時はテントも炊事道具も食糧も持っていかなかったので、10日間の食糧、燃料を全て積み込んでのトレッキングは実は初めてだ。
さすがに自転車旅でも10日分の食料を持ったことはないので、大食い私たちの10日分の食料をいかに軽量化し、かつ内容的に充実させるかが、まるでゲームのようで楽しかった。

10日分の食料と、最小限かつ効果的な行動着や防寒着、テント、寝袋、調理器具などを全て詰め込めたバックパックの重いことと言ったら。
服にしろ、テントなどのアウトドア用品にしろ、私たちは自転車旅で普段から使用しているので、限りなく上等で軽量化されたものを持っているのにもかかわらず、バックパックが異常に重い。
体力には自信があったのに一日目からすっかり参ってしまった。
しかも1日目はたった10km弱のほぼ平坦な道だったのに、キャンプサイトに到着したときには自転車では味わったことないほど疲労困憊していて、テントを設置するなり昼寝をしてしまった。
こーんなに「疲れた!」と思ったのは初めてじゃないかしら。

凄く期待していたパイネサーキットのトレッキング第一日目がすっかり雨で、
景色も全く望めず、まるで荷物運びのロバになったようなただの悲壮な移動になってしまって、
それが疲れを酷いものにさせたのかもしれない。
ともかくとても残念なスタートを切った。

翌日はすっきりと晴れた。
空は晴れたのに、2人とも何だか気持ちがすっきりしない。
景色も昨日とは打って変わって、遠くに美しい山々や氷河も望める。
でも、心に響くようなインパクトがない。
パタゴニアに来て美しものを見すぎてしまったからだろうか、期待が異常に大きすぎたからだろうか、
それとも荷物のあまりに重くて早く次のキャンプサイトに着きたい一心で景色を楽しむ心の余裕がないからだろうか。
もっと楽しまなきゃと気ばかりが焦る。
それでも2日目のキャンプ場ディクソンの心地良さに救われて、少しずつテンションが上がってきた。

それにしても1日目のキャンプサイトといい、2日目のキャンプサイトといい、
ホットシャワーがあって、水洗トイレがある。夜になるとガガガーとジェネレーターが稼働し始め、小屋には電灯が灯る。管理小屋には高いけれどチョコやジュース、ビールに卵まで売っている。

確かにホットシャワーがあればあったで、嬉しくて入った。
トイレも鼻をつまんで息を止めて入らなくていいのは、正直嬉しい。
シンクがあって食器類を洗うのも、便利。
でも、何か違うよな。
山の中でそこまでを私たちは求めていないし、
自然に与えるインパクトを考えると、やっぱりそこまでなくていい。
いや、今にもすぐ全て撤去してしまって、ぼっとん便所にして、シンクなんかなくていいから水がかろうじて汲めるだけのファシリティーにしてしまったほうがいいと思う。

私たちが山の中を歩いて、ぼっとんであろうと野であろうと用を足して、食事をして、というだけで十分に自然を侵害している。
私たちの普段の街の生活なんて自然汚染以外の何ものでもないことだって分かっている。
それでも、せめて美しい国立公園だけでも、最小のインパクトで、今ある自然だけでも残していかなくてはならないと思う。

これだけの素晴らしい大自然を、世界中から沢山の人々が楽しみにくる場所、パイネ国立公園。
だからこそこの公園には、大自然を守る姿勢を率先して見せてもらいたかった。
それどころかパイネ国立公園が向かっている先はドル箱を狙う観光名所。
水洗トイレの水や汚物は、シャンプーまみれのシャワーの排水は、どこへ垂れ流されているんだろう。
シンクを用意して、わざわざ食器洗い洗剤まで用意してあって、
シャンプーやせっけんを販売していている。
訪れる客も客で、真夜中2時過ぎくらいまで酒を飲んでワーワーと騒いでいる。
何だか悲しくなってきて、テンションがすっかり下がってしまった
ひろはうるさくて眠れないテントの中で、“自転車生活に戻りたい”と悲しげにつぶやいていた。
そんな私たちのテンションを感じとってか、再び天気が悪くなってきた。

山の中なのに、こんなにもテンションが下がっているのは二人とも初めてで
自分たちでもどうしたものだかオロオロする。
再び雨で数メートル先しか見えないような道を歩き続ける。
なんだかなぁ。

きっと色んな意味で私たちにとってかけがえのない10日間になるはずだと信じて先に進もう。


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