Feb,15,2011

今まで沢山の国境を越えて来たけれど、
こんなにも静かで美しい国境越えは初めてだった。

カレテラ・アウストラルの南の果ての村、Villa O’higginsからボートで3時間渡ったところに小さなチリ側の国境がある。
Villa O’higginsですら、何故にこんな辺鄙なところに村があり人が住んでいるのだろうというくらい地の果てにある人口約500人の小さな村で、半径100kmに他の村は存在しない。
そこからさらにボートで渡ってやっと辿り着く小さな国境はいったいどんな国境なのか興味深々でやってきた。
この国境は車が通ることはできなくて、自転車か徒歩、馬でしか通ることができない。
チリの入国管理事務所からアルゼンチンの入国管理事務所までは22kmもあって、
その間は登山道になっているだけ。
チリ側もアルゼンチン側もボートを使わないと車道には繋がらない、完全に車フリーゾーン。
しかも11月から4月の夏季限定でしかオープンしていない国境。
いったい一日に何人が通過するのだろう。
もしかしたら誰も来ない日があるかもしれない。
私たちが通過した日も、チリ側を出国したのはたったの6名。入国は3名。
アルゼンチン側の入国は6名、出国は5名だった。


あれがフィッツロイだよね?どーんと現れたかっこいい山にテンションがあがる。

チリ側の入国管理事務所は思いのほか立派で、小さな小学校のようだった。
係官も数人いて、ちゃんと制服を着たりしていたけど、入口にはペットの犬が2匹ゴロンと横たわっているところや、台帳に手描きでノンビリと記入するあたりは予想していた通りの小さな国境の雰囲気だった。


国境そのものは山の中にひっそりと看板で示してあるのみ。

もっと面白かったのはアルゼンチン側。
台帳は手描き、犬がいるのはもちろん、
犬小屋にはちゃんと名札がついているし、
キッチンを覗くと係官のおじさんがせっせとパンをこねてるし、
他の若い係官は洗濯物を干していたりする。
何よりもみんな私服。
入国台帳に記入する係官も、まるで雑貨屋のお兄ちゃんのような気さくなジャージ姿のお兄ちゃんで、
暖炉があって、テレビがあって、ソファーがある部屋で私たちがパスポートを提示している様子はなんだか滑稽にすら見える。
ひとりの係官は今日湖でマスを釣ったんだと戦利品を見せてくれた。
なんて長閑な国境でしょう。


私たちは馬を借りて軽装で山越えをしたので楽ちんだったけど、ところどころ泥沼があって、フル装備で山越えしたらとんでもなく大変だったと思う。

そして何よりも美しい道。
チリ側は美しい氷河湖と雪山を望みながら、そしてアルゼンチン側は名峰フィッツロイを眺めながら。
こんなにも静かで美しい国境越えは、きっと後にも先にもない、世界で一番素敵な国境越えであることは間違いないと思う。

そしてボートに乗って湖を渡り、40km先のフィッツロイトレッキングのベースの村El Chalten(エル・チャルテン)へ向かう道の美しかったこと。
平坦な道で40kmなんて朝飯前だと思っていたら、景色があまりに美しくて2,300mごとに止まっては息をのんで写真を撮りが続いて、気付いたら5時間もかかってしまっていて驚いた。
雲に隠れてしまいがちだというフィッツロイが、ずっと姿を隠さずに色んな角度で私たちに微笑みかけてくれ続けた。


この湖のふもとにアルゼンチン側の入国管理事務所がある。
泥沼を越えて再び目の前現れた美しいフィッツロイに涙が出そうになった。

カレテラ・アウストラルが終わってしまって、若干寂しい気持ちでやって来たアルゼンチンだったけど、
ガイドブックでもおなじみのパタゴニアのハイライトは、実は今から始まる。
フィッツロイにモレノ氷河、パイネ国立公園にフエゴ島。
パタゴニアはどれだけのポケットを持っているのだろう。
まだ終わっていないのに、まだまだこれから沢山のところを訪れるのに、
もうすでにまたいつかここに戻って来なくてはならない気がしている。


のどかな国境。右側の私服の人たちが係官。


どんどんフィッツロイが近づいてくる!!


こんな景色がずっと続く。美しすぎて思わず溜め息。


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