Jan,28,2011

カレテラ・アウストラルの後半はビビッドな虹とともに始まった。
こんなビビッドな、まるで蛍光色のペンが並んだような虹を見るのは初めて。
天気の回復を待って自転車旅を再開したかったけど、
天気予報によればこの先1週間ずっと雨。さすがに1週間も待っているわけにいかないし、
その後の天気だって分からないから、まずは進むことにした。
今日の予報ももちろん雨だった訳だけど、出発前には虹が出て、なんと青空が広がってきた。
もしかして超ラッキー?!

コイアイケから約100kmはカレテラ・アウストラル最後の舗装路。
やっぱり舗装路は走りやすい。峠があっても100kmくらいは余裕でこげる。
実際あっという間に標高1100mの峠を登りきった。
途中からは晴れ間も消え去り、あれよあれよという間に雨雲がやってきて寒い雨が降り続けた。

峠の頂上付近は鋭いシェイプの岩山に囲まれた美しい道だった。
晴れていたらきっともっと美しいのだろうけど、霧がかった寒々しい黒い空の中に浮き上がる鋭いシェイプも悪くはなかった。
岩間に吸い込まれたら帰ってこれないような気にすらさせられる、美しいけどどこか怖い、怖いんだけどもっともっと見ていたい、冷たい美しい景色だった。


前半はこんな青空も見えたのだけど。アフリカのサバンナを彷彿させる光景だった。カレテラ・アウストラルでこういう景色を見たのはここが初めて。

さぁ、いよいよお楽しみの下りが始まった。
激しかった雨がさらに強くなったと思ったら、なんとミゾレになった。
激しく冷たく大きなミゾレが、針のように鋭く顔を刺してくる。
痛い、痛い、痛すぎる。
ブレーキを握る手の感覚はもはやない。感覚はないのに痛みは強い。
今指を切られても分からないかもしれない。
ブレーキが利いているってことはまだ指がちゃんとあって、なんとかブレーキを引いているのは確かだ。
早くこの痛みから解放されたい。
しかし、たかが標高1000mくらいの峠だし、一年で一番暑い時期なはずなのに、
なんでこんなに寒いんだ?

ぐーんと下がってきて、止まって後ろを振り返ったら真っ白な山々が連なっていた。
降り積もったばかりのフレッシュで明るい白い雪が、寒さを物語っていた。
あともう10kmも走れば村に着く。村に着いたら絶対に暖房のある宿に泊まろう。
暖炉の前で手を温めて、ホットシャワーで体を温めよう。
あと10km、あとちょっと。頑張れ、わたし。


雨の日はカメラを出すのも億劫。

キュッキュキューと、前を走っていたひろが急ブレーキをかけた。
雨宿りできるバス停が50kmぶりにあったので、そこでおやつを食べることにした。
ずっとお腹が空いていて休憩したかったのだけど、ずっと雨が降っていて休憩が出来なかった。
あと10kmだけど、何か食べて体の中から温めるのは大切。

バス停の隅から小さな煙が上がっているのが見えた。
無造作に置かれた木からかすかに煙があがっている。
あれれと思っている間に、ひろが一目散に木を組み直して、息を吹いて、たき火が復活した。
最近のひろはやたら火をおこすのが上手い。
枯れ木や枯れ葉が雨でぬれていようと、いい素材がなくても、うまいことそこにある素材を使っていい火を作ってくれる。


あの岩山の向こうにもしかしたらすごい山が隠れているのかも。

小さいながら十分に暖かい火に当たって、体が融けていく感覚がした。
火に当たったことで寒かったことに体がやっと気付いたのか、急に震えが止まらなくて、「うぅ」とか「あぁ」とか奇声が勝手に口から出てくる。いろんな感覚がやっと戻って来た。
きっと前を走っていたサイクリストが、寒さのあまりたき火をつくったのだろう。
彼らもきっと私たちのようにこの小さな屋根の存在に感謝して、小さな暖かい火に感謝したことだろう。
小さな火が消えつくさない程度に木をばらして、感謝してその場を去った。
「あのバス停には神様がいたね。」
ひろがぽそっと言った。


ありがとう、この空間にどれだけ助けられたか。

約100kmの走行で辿り着いたVilla Cerro Castillo(セロ・カスティージョ村)では、
屋根付き共用スペースに暖かい薪ストーブのあるキャンプ場に泊まった。
この日のお客さんは私たちと他2人のサイクリストだけだったので、
オーナーが共用スペースで寝てもいいよと言ってくれた。
4人とも峠のミゾレで悲惨な思いをした仲間たち。みんなで喜んでストーブを囲んで寝た。
なんだかとっても幸せな夜だった。
セロ・カスティージョ村は、本来は美しい名峰セロ・カスティージョが望める場所。
明日は晴れてセロ・カスティージョが姿を現してくれることを願って、暖かい眠りに着いた。


濡れた靴や服もぜんぶ乾かせて、暖かいストーブを囲んでパチパチいう音を聞きながら深い眠りに着いた。


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