ホーログを出発して、まずはワハン渓谷を川沿いに走る。
川の対岸はもうアフガニスタンだ。
タジキスタン側にはボコボコながらも一応舗装された道路があるし、車も走っているのだけど、
アフガニスタン側では、たまに未舗装の山道をロバの隊商が歩いているのが見えるだけだ。
まるで何世紀も前の様な光景が、川の対岸には広がっている。
手を伸ばせば届きそうな距離に、近くて遠い国がある。
しばらく進むと、川の向こうに雪を被ったアフガニスタンの山々が見え始めた。
一つ一つの山はそれほど感動的な姿ではないのだけど、カーブを曲がる度に新しい山々が次々と姿を現すので、それが嬉しくついどんどん先に進みたくなる。
でも先を急いではもったいない。
先へ先へという気持ちをぐっとこらえて、あえてゆっくりとしたスピードで自転車を走らせる。
のどかで平和な村々。
ワハンには沢山の村々がある。
村々を通過する度に、子供は恥ずかしそうに手を振ってくるし、大人はチャイでも飲んでいけと誘ってくれる。僕らに手を振るためだけに、わざわざ農作業の手を止めて道端までやってくる人もいる。
1日何人もチャリダーを見ているはずなのに、まるで初めて旅人を見るかのように温かく接してくれる。
ワハン渓谷にいた4日間、毎日民家の庭先にテントを張らせてもらった。
どこの家でも快くテントを張らせてくれたし、家に招き入れてくれてチャイやナンを振舞ってくれる。
色々と話しかけてくれる言葉は全く分からないのだけど、顔つきや声のトーンやジェスチャーだけで、
何か必要なものはないか?と気を遣ってくれているのが分かる。
子供たちが整列してテントを張るのを観察中。
庭先にテントを張っていると村中の子供が集まってきて、みんな興味深々な顔で僕らを眺めている。
でも決して自転車や荷物に触ろうとはしない。ニコニコと遠目から僕らを見ているだけだ。
写真を取ってあげるからこっちにおいでと誘うと、みんな恥ずかしそうに近づいてくる。
そして写真を取った後はみんなが嬉しそうに“ありがとう”と言ってくれる。
今まで“俺の写真を取ったのだから金を払え”と言われたことはあっても、“写真を取ってくれてありがとう”と言われたことなんてなかった。
なんて可愛い子たちなんだ。
ある家族の庭にテントを張らせてもらうと、村中の人たちが挨拶にくる。
一緒に走っていたイスラエル人のロイが子供たちに玉ねぎ買ってきてとお使いを頼んだら、嬉しそうに走っていて、いっぱいの玉ねぎを持って帰って来た。
ロイがお礼に甘いものをあげようとしたら、子供たちは“いらないよ、ありがとう。”と言うだけで、決して受け取らなかった。
大人たちもそうだ。チャイやナンや朝食を振舞ってくれ、時には身につけていた素敵なアクセサリーをプレゼントしてしてくれる子までいたのに、絶対に何かを要求してきたりはしなかった。
丸4日間、ただの一度も、金をくれとか物をくれとか言われなかった。
大人がみんな純朴で礼儀正しいから、子供にも素晴らしい道徳感が育っているんだろう。
やっぱり子は親を写す鏡だ。
ワハンには大自然を見に来たのだけど、それ以上に人々の温かさが印象に残った。
ワハンの人々は、どこまでも純朴で穏やかで素敵な人たちだ。
こういう素晴らしい人たちと、とても近い距離で接することができて、やっぱり自転車の旅は最高だ。
生意気な年頃の子どもたちもみーんなびっくりするほど可愛い。