ウズベキスタンとの国境アイベックから首都のドゥシャンベまでの400KM弱の間に、
富士山級の峠が2つある。
1つ目の峠はオフロードの峠道、
2つ目の峠は標高2700m地点のトンネルを利用するか、オフロードの峠道を使うかの選択肢がある。
標高700m近くカットできるトンネルはとっても魅力的だけど、噂によると6,7KMと長いし、暗いし、穴がいっぱい開いていて怖いという。
最後まで迷ったけど、1つ目の峠の下りでいっきに標高1300mくらいまで下がってしまったので、
再び2000m以上も登る気力が湧かなくて、トンネルを利用することにした。
怖いのも嫌だけど、ウズベキスタンでの病で体力を失ってしまっている私たちは、
1つ目の峠でかなり疲れてしまっていて、
700m登らなくていいというトンネルは、えらく魅力的に感じてしまった。
それに本当にひどそうだったらトンネル部分だけトラックに載せてもらってもいいね、
なんて気軽に考えていた。
不安な要素たっぷりのトンネル。果たして無事明るい世界に戻ってこれるのか不安でたまらなかった。
トンネルは突然現れた。
ヒッチハイク出来るような雰囲気もなく、
目の前に現れた大きな暗い穴に入っていくしか他なかった。
ヘッドランプを付けて、手ぬぐいをマスク代わりにして、大きく深呼吸した。
疲れていたので、トンネルのことをあまり考えずに走ってきたけど、
目の前に現れたら急に怖くなった。
それでも少し前に出会ったデンマーク人のドゥシャンベ在住のライダー(バイクに乗る人)が、、
最悪なトンネルだけど、たまに電灯もついているし、穴も少なくなったし、昔よりマシになったよ、と言っていたことを思い出して、少しは勇気づけられて突入した。
トンネルは予想以上に真っ暗で、空気があまりにも汚いから、ヘッドランプで照らしても曇っていてほとんど見えない。水びたしになった道路には穴がボコボコ開いているし、大きな穴が開いているところにはブロックが置いてあるのだけど、それがまた見えにくくてぶつかりそうで怖いし、息は苦しいし、目は痛いしで、間違いなく最悪なトンネルだった。
でも入ってしまった以上走り抜けるしかない。
何も考えずに、目の前の穴にだけ集中して、出せるだけのスピードを出し、とにかく早く脱出するんだと頑張った。せめてもの救いは、たまに自動車も通るけど、彼らも穴が怖くてゆっくり走るので、狭いトンネルではあるけど、車にはそんなに気を遣わなくていいことくらいだった。
いったい何分走ったのだろう。
7kmだから2、30分くらいだったのだと思うけど、えらく長い時間に感じた。
明るい出口が遠くに見えてきたとき、体がぶるっと震えた。
体中に鳥肌が立って、目頭が熱くなった。
トンネルの出口には思わず目をこすって見直してしまったほど美しい景色が広がっていた。
「ひろー、ひろー、」
あまりにも嬉しくて、意味もなくひろを呼ぶことしか出来なかった。
トンネルの出口には眩しい夢のような世界が待っていた。
雪をかぶせた美しい山々に青々とした緑の草が生い茂っていてる。
高原特有の澄み切った真っ青な空。
それに、透明色という色えんぴつが世の中に存在していて、
今わたしの目の前にある景色にその透明色を最後に塗って仕上げたかのように、
世の中がキラキラしていた。
普通に見ても相当感動する景色だろうけど、
真っ暗な陰気な世界から出てきた私たちには天国かと思うほど美しかった。
もう2度と通りたくないトンネルだけど、
その後に出会えた美しい山々との劇的な出会いのスパイスだったということにでもして、
いい思い出として記憶に留めておこうかな。
雪山はいつだって胸をときめかせてくれる。
ご褒美の美しいダウンヒルに怖かったトンネルのことも忘れてしまう。