結局のところ天気予報は私たちを裏切った。
朝起きて、つかの間青空を見せて私たちの気をよくしておいて、
さあ自転車で出発だというときになったら、結局空は一面グレー。
走り出したら雨雲がぐんぐん近づいてきて、敢え無く今日もすぐに雨具の登場。

はぁ、もうやんなっちゃうよ。
楽しみにしていた景色の良いっていうダンシ―ズパス(Danseys Pass)も、これじゃきっと何にも見えないよね。ああ、昨日キャンプ場代を無駄にしてでもダンシ―ズパスに向かっておけばよかったんだ。
雨に打たれながら走り続けて１時間ほどすると一軒の宿が現れた。広い軒下の一部をお借りして、雨宿りをさせてもらう。強弱をつけながら雨は感心するほど降り続ける。
昨日見た天気予報はなんだったんだ？
寒くてブルブルしていたらヒョウまで降ってきた。

でも、どうやら一番ひどい時間帯を軒下で過ごすことができたようで、再び出発してからは空が明るくなり始め、雨もぽつりぽつりと降る程度になってくれた。
天も私たちのことをすっかりと見離しているわけではないんだ。

宿を越えてから天気がマシになってきたと同時に、景色がぐんと変わってきた。
緩やかな登りとともに、荒涼とした草っぱらの丘が見渡す限り広がってきた。
風でしんなりと折れた草は私たちの進行方向に向かって首を曲げている。風はどうやら私たちの味方のようで、後ろを振り返ってみると、バタバタと風が顔を打ち付けてきた。

草っぱらの丘と聞くと、あまりゴージャスな景色がイメージできないかもしれない。
でも美しいカーブを描く大小さまざまな丘が、黄金色の草にまとわれて一面に広がる様は、今までに見たことがない景色で、曇り空の下でも異彩を放っていた。
黄金の丘の後ろにうっすらと雪山が見える。
晴天の青空のもとでは、きっともっと美しいに違いないと思うけれども、
少し寂しげな黄金色にはグレーの背景もよく似合っていて悪くないなと思った。
景色を楽しみながら登っていたら意外とあっという間にトップに辿り着いた。
ニュージーランドではなだらかな道が延々と続いて、最後につじつま合わせのようにぐいーんと登るという無茶な坂道に苦しんでいたけれども、このダンシ―ズパスは最後まで上手に道路を建設できたようで、無理なく登ることができた。

今日はテンションをあげるために、とっておきの”ゆかり”フリカケを混ぜたおにぎりをランチに用意してきた。それに海苔だって用意してある。
朝、雨に打たれながら走っている時は、せっかくのおにぎりも無駄になってしまったかとションボリしたけれど、今は壮大な景色を前にどこで食べようかルンルンしている。
残念ながら頂上はパタゴニア並みの突風で、写真を撮るのもままならなかったので敢え無く下ることにする。ハンドルをよろよろと支えながら下り始めると、登ってきた側の景色とはまた全く違った景色が目に飛び込んできた。
今度は緑のグラデーションが美しい、緑の草っぱらの丘が眼下に広がる。
これも今までに見たことがないような景色で、手をつけていない大自然なのは間違いないのだけど、ワイルドではなくて、フェアリーテイルの舞台はぜひここで撮影したいと思ってしまうような可愛らしい景色なのだ。
ワイルドで荒々しい景色の方が好みの私も、この景色にはすっかりフォーリンラブしてしまった。
この景色の前でおにぎりを食べるしかないと寒い強風の中おにぎりを頬張る。
さっそく大切な海苔が一枚、強風に乗ってフェアリーテイルの丘の方へ飛んで行ってしまった。

海苔に巻いたユカリおにぎりは強烈に美味かった。
やっぱりピクニックはサンドイッチじゃなくておにぎりだと確信する。
幸せで頬を緩ませていると、ちらちらっと青空と太陽が顔を覗かせ来た。
フェアリーテイルの丘がますます可愛らしく見えてくる。

下り始めるとますます天気が良くなってきた。
トップの方を振り返るとどんよりした雲が覆っている。
峠を越えると天気が変わると一般には言われるけれども、今日ほど実感したことはなかった。
メルヘンな丘の中へ、青空の中へ入っていく。
やっぱり晴れ空って気持ちがいいね。
久々に爽快な気分でペダルを漕ぐ。

今日はさらにボーナスで素敵な野宿場が見つかった。
川沿いのフカフカの草地で、虫があまりいなくて、道路からのアクセスが難しくないのに道路からは見えなくて、川がすぐ横だから水に困らない、パーフェクト！
それに青空。
無料なのにキャンプ場より心地がいい。シャワーもトイレも水道も電気もないけど、こっちのほうが気持ちがいい。
せっかく焚火もできる川原だったのに、日が暮れる前に疲れ果てて眠ってしまったのが残念だったけど、思い出に残る幸せな一日だった。
ダンシ―ズパス、素敵だったよ、ありがとう。

＊＊＊お知らせ＊＊＊

久しぶりにＰＨＯＴＯＳページを更新です。
今回は北インド、ラダック＆ザンスカール地方のPHOTOS１１３枚をアップしました。
ワイルドな自然、深いチベット文化の数々をお楽しみください。
今後もインド・ネパール編の写真をどんどんアップしていきますのでお楽しみに！
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