Jan,04,2013

朝9時発パプル行きのフライトは大幅に出発が遅れていた。
バスターミナル並みに大混雑している待合室には、電光掲示板もなければ放送案内もない。
そして遅延なんて日常茶飯事なのだろう、スタッフの誰に聞いても「ああパプル行き?まだ。」と軽くあしらわれるばかり。
午後2時過ぎになって、ようやく、そして何のアナウンスもなく唐突に搭乗手続きが始まり、あれよあれよいう間に超小型プロペラ機に詰め込まれた。
そしてパイロットがプロペラを手でくるりと一回ししたら点検終了。
そのままガタゴトと飛行機はパプルに向けて飛び立った。


20人も乗れない超小型プロペラ機。こんなに小型な飛行機はさすがに初めて。

今回僕らが歩くのは、エベレスト街道というネパールで一番有名なトレッキングコース。
エベレスト街道の起点となるナムチェ(Namche)には、ルクラ(Lukla)まで飛んでから1,2日かけて歩くか、ジリ(Jiri)までバスで行ってから6日かけて歩くというのが一般的だ。
でも僕らは、パプル(Paplu)から南下し、反時計回りにぐるりと遠回りをしながらナムチェに向かうというマイナールートを選んだ。
この夏に出会ったトレッキング好きの旅人から「観光地化されてなくて素朴だよ。」と教えてもらったエリアなのだけど、まだトレッキングルートとして開発すらされていない、地元民用の山道を歩く超マイナールートだ。

10年前にアンナプルナ・サーキットを歩いた時、ヒマラヤの素晴らしさはもちろんだけど、途中で垣間見た山の暮らしにもすごく心を惹かれた。
でもエベレスト街道には地元民が日常生活を営むような村はほとんどなくて、宿やレストランが並ぶだけの観光用に作られた集落しかないので、山の暮らしはあまり見られない。
だからエベレスト街道に入る前に、ぜひとも素朴な暮らしを見たいと思って選んだルートだ。


延々と続く棚田。人間のたくましさを感じる。

そんな素朴さ溢れるトレッキングを期待した前半戦。
いざ歩きだしてみると、びっくりした。
素朴も素朴、素朴さが溢れすぎていて「何もない」のである。
ジリ・ナムチェ間のメインルートに出るまでの6日間で、他のトレッカーには2組・3人しか会わなかった。3分に1人はトレッカーとすれ違うメインルートとは比較にならないくらい静かな、むしろ静かすぎるトレッキングだった。

素敵な出会いは沢山あった。
ホッコリ家族経営の宿では、子供用の一番上等な部屋をわざわざ開けてくれて、子供たちが照れながらも一生懸命美味しいご飯を作ってくれた。
毎晩どこからか英語を話せる人を捕まえてきては、ネパール語をいろいろ教えてもらったりした。
「この辺りもトレッキングルートとして発展させたいんだよ」と夢を語ってくれた宿のおじさん。
新婚ほやほやの夫婦が不器用ながらも仲睦まじく奮闘していた宿。
ポーターたちとは何度もすれ違い、その度にどんどん打ち解けた笑顔を見せてくれた。
毎日心がホンワカあったまる瞬間があって、やっぱりネパール人って素敵だなあと再認識することができた。


とある日の宿。わざわざ子供の部屋を僕らのために開けてくれた

とはいえ、この辺りの人々はまだまだ外国人に慣れていないのか、どうも表情が硬い。
特に子供って少し外国人を見慣れていないと、怖がってしまって笑顔すら見せてくれない事も多い。
これも素朴、といえば素朴なのかもしれない。

ちなみに風景はといえば、緑に溢れた景色は素敵なのだけど、残念ながらヒマラヤの山々は一向に姿を現さない。やっぱりネパールを歩く以上は、ヒマラヤを仰ぎながら歩きたいと思ってしまう。

一日中歩けば簡素な宿は見つかって、夕食にダルバート(それ以外のメニューはない)をいただき、室内で寝かせてもらうことができた。
でも日中はかなり大変で、道中に食堂なんて全然ないから、民家に突入して「食べるものありますか?」と尋ね歩き、なんとかインスタントラーメン(チャウチャウと呼ばれる)を作ってもらうというヒモジイ日々を過ごした。
これはなかなかどうして、素朴すぎる。


ネパールで大人気、ビリヤード風おはじき。これが意外と難しい。

そして外国人からボッタクルという精神はこんな山の中でも健在なようで、
隣り同士ある正直商店と悪徳商店とでチャイの値段が5倍も違ったり、食事代がエベレスト街道のどこよりも高かったりと、なかなか手ごわかった。
エベレスト街道は観光地な上に標高5000mまで人力で食料を運んでくるのだから高くてもしょうがないけど、それとすぐ隣の畑で採れた野菜を使った料理が同じ値段設定というのはなかなか納得できない。
しかもようやく見つけた食堂でダルバート(定食)を食べている地元民に「いくら?」と聞いたら、
「ハンドレッド!・・・・・・・・・フィフティ」と徐々に目をそらながらぼそぼそと答え、すかさずキッチンの奥からおばちゃんが「何言ってるの、二百よ」なんて声が飛んでくる。
こうなるとどんなにお腹がすいていても意地で食べるもんかと思ってしまう。
なんて子供っぽいんだろうと思いつつ、おなかがグルグルいいつつ、そのまま何時間も歩くのはなかなか修行のようだ。

なんか思っていた「素朴さ」からは遠い。
でもこれが「ありのままのネパール」なのかもしれない。
僕が期待していた素朴って何だろうと、考えて込んでしまう。
観光客ズレしていない素の姿が見てみたいと言いながらも、結局はあくまでも外国人・観光客としてお邪魔したいのだ。
僕たちを怖がらない程度に外国人に慣れていて、でも僕らを特別なお客様扱いしてくれる程度に観光ズレしていなくて、ましてやボッタクルなんて心にも思っていなくて、
作られたベタな観光地は嫌で、でも宿やレストランはそれなりに整っている方が嬉しくて、
そんな「素」以上、「スポイル」未満な場所を、「素朴」だけど「観光ズレしていない」という都合のいい場所を、僕は期待していただけなんじゃないだろうか。
夜、板張りベッドのあまりの硬さに自分のマットを持ってくればよかったと後悔しながら、ボッタクルって結局誰が悪いんだろう、ツーリズムと観光ズレの境界線って何だろうと考え込んでしまう日々が続く。

景色がボチボチだったのも手伝って、とにかく早くジリ・ナムチェ間のメイン観光ルートに出てしまおう、そこに出れば余計なことは考えなくて済むはずだと、毎日ひたすら歩きまくった。
9日かかる予定だったところを、毎日メチャクチャ歩いて7日でナムチェまで歩き切った。
そして6日目にメインルートに合流したらほっとした。メニューがあって、立派な宿があって、なにもかもが定価制で、ワサワサと外国人トレッカーがいて、全然別の世界だ。
もう「ボッタクリ」についてグダグダ考え込む必要がない。
もう頭を悩ますトレッキングはこれで終わりだ。

そんな期待とはかけ離れた前半戦だったけど、メイン観光ルートを歩いただけでは思いつきもしなかったことを、あれこれ考えることができた。
こんな経験も貴重で素敵なのかもしれない。


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