Jun,23,2012

9か月ぶりのヨーロッパ。意気揚々とマドリットの空港に降り立って預け荷物を待っていたら、
カバンのチャックが見事に壊れて出てきて、中に入っていたテントがなくなっていた。
物価の高いヨーロッパ、これからキャンプ漬けの日々が待っているというのに、よりによって肝心要の我が家がなくなるなんて。
これは呑気に街観光なんてしている場合じゃない、何としてもマドリッドでテントを探さないと。


マドリッドの空港はやたらおおっぴらに寝ている人が多くて寝やすかった。

航空会社とのやりとりに追われる傍ら、二人で初代テントの良い点と悪い点を確認しあうところから始まり、パソコンの前にくぎ漬けになってテントやアウトドアショップを探し、お店に出向いてテントを実際に張らせてもらい、ああでもないこうでもないと話し合っていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
せっかく食の国スペインにいるというのに、朝食も食べず、昼食はマクドナルドのハンバーガーを歩きながら食べただけという、日本のサラリーマンもびっくりの忙しさだった。
なにせマドリッドでは2日間滞在して友人に会うことだけを予定していて、すぐにイタリアに飛んで走り始めることにしていたのだ。
とにかく時間がない!のである。


トランスファーで利用したアムステルダム空港。空港内のライブラリーもデザイナブルでいけてるし、free wifiも飛んでるしで良い空港

せっかく買うのだから、本当は色々な条件にあったテントが欲しいのだけど、何せ2日間しかない上に、お店はシエスタ(昼休み)で日中閉まっているし、お店には思った以上に在庫がなく選択肢の幅が極端に狭い。
それにこの3年半、人が使っているテントを沢山見続けてきたけど、これが欲しい!とドンピシャで思うテントにはなかなか巡り合わないものだ。

唯一これが欲しい!と思ったヒルバーグのトンネル型テント、Nammatj 3GTは、800ユーロ以上もする高価なもの。
それを友人宅にネットオーダーする手もあったのだけど、僕らの残りの行程を考えるともうテントの使用頻度はそれほど高くないので、そんなに高価で重たいテントはいらないのだ。
結局、マドリッドのショップにあったものの中から選ぶしかない。

そうやって欲望と葛藤して妥協を続け、散々悩み、2日目の閉店時間直前にようやく購入したのは、MarmotのLimelight3というテント。ラッキーなことに144ユーロと格安で手に入れることができた。
そして買った自分たちでも驚く、なんとメッシュのテントだ。

重さ、広さ、値段は合格点。雨漏りもまあ大丈夫だろう。
でも何といってもメッシュだ。網戸のままで毎日寝るようなものだ。
もちろんちゃんとしたダウンの寝袋を持っているし、ヨーロッパ編は夏だから多分大丈夫だけど、その後に予定しているインド・ヒマラヤ編は本当に大丈夫なのか?
始めてのメッシュテントに、不安は尽きない。


中身がメッシュ部分にカーテンをつけることも検討中

でも少し時間が経ってから冷静に考え直しても、やっぱりあの時点でのベストを選んだと思う。
実際、慌ただしくマドリッドを離れた後はテント暮らしが始まったのだけど、使ってみると思っていた以上に快適なテントだった。
メッシュのお陰で室内は実際以上に広く感じられるし、設営&撤収はとっても簡単だし、荷物も収納しやすい上にアクセスもしやすいし、朝晩は息が白くなる寒さの初夏のアルプス山中でも全然寒くなく快適に眠れる。メッシュ部分にカーテンでも自作すればもう少し温度が下がってもいけそうだ。

使っているうちにどんどん愛着がわいてきて、これは是非名前をつけてやろうということになった。
そして命名の儀式。
メッシュのテントだから、名前はムッシュ。もちろんフランスで思いついた名前だ。
僕らの命名って、いつも恥ずかしいほど単純なんだよなあ。
さあ、ヒマラヤでも何とか快適に眠れますように。よろしくね、ムッシュ。

 
***ここから先は装備紹介***
 
よもやの形でお別れとなった初代テント、アライテントのエアライズ3DXフライ仕様
せっかくの機会なので、チャリダーという視点から良かった点と悪かった点をまとめたいと思います。

☆良かった点☆
何よりも過不足ない快適な空間が大好きでした。
室内は二人が寝っ転がった上に貴重品や着替えなどのカバンを入れられるぴったりの大きさ。やっぱり荷物の多いチャリダーには大きめのテントが必要です。
高すぎて目立ちすぎることも、低すぎて窮屈さを感じることもない高さも絶妙でした。
DXフライにして追加された大きな前室は、残りのカバンを全て入れても十分なゆとりがあって、テントの中にいても窮屈さを感じない、自分たちだけの庭のようなラクシュアリーな空間でした。
全体のシルエットも“これぞテント!”という堂々とした感じで、なかなかお気に入りでした。

山岳テントにありがちなド派手な色でもなく(山では安全のために目立つことが重要ですが、隠れて野宿するチャリダーとしては目立たないことが重要なのです。)、室内が暗くなって憂鬱な気分になることもない、明るいけれど目立たない絶妙なころ合いのクリームカラーも大好きなポイントでした。

そしてチャリダーにとって大きなポイントはその軽さ。グラウンドシートなどの小物類を入れても4KGを余裕で切る軽量テントは、100g単位で荷物を削りたいチャリダーには大きなアドバンテージ。
しかも驚くほど速乾性に優れていて、朝のちょっとした日光であっという間に乾いてくれるので、びしょびしょのまま収納しなくていいのも、とても気に入っていた嬉しいポイントです。

広さ良し、見た目良し、色良し、重さ良し、速乾性抜群。
そうやって書くと完璧なテントだったようにも思えてくる。
実際に快適な素晴らしいテントだった。
晴れの日には・・・

 


薄い黄色が旧我が家。世界のチャリダーたちが集まってキャンプした時の写真。まるでテントの展示会。奥の深緑のテントはヒルバーグ。ヒルバーグ以外のもみんな高級な良いテント。

☆悪かった点☆
そう、一番の問題は雨漏りなのです。
内張りにくっついているフレームスリーブにポールを差し込んで内張りを立て、その上にダイレクトに外張りをかぶせる構造は、外張り・スリーブ・内張りが順に密着しているのと似たようなものだ。
そのため、雨の日には外張りから滲みたり結露したりした水滴が、スリーブを伝わり、内張りに浸入してきて、室内の四隅に漏れた水がたまってしまうのだ。
いくら四隅にシーム処理を施しても内側から滲み出てくる水には対処しようがない。
大雨の日には一日何度も雑巾で四隅を拭きとっていたくらい水がたまってしまうのだ。。

そして内張りと外張りの隙間狭すぎるので、雨+風の日にはすぐに内張りと外張りがくっついてしまい、そこからも大量に水が滲みてきた。
テントに戻ると内張りの側面がぐっしょりと濡れているのは本当にへこみます。自分で張り紐を何本か増やして対応していたけど、これには長年悩まされました。

そして機能性ゼロの換気システム。背面にあるフニャフニャの煙突型ベンチレーションは全く機能しないばかりか、ベンチレーション自体の厚みや重みのせいで、背面の内張りと外張りがくっついて水漏れを起こす原因になっていた。あれならベンチレーションなんて存在しない方がマシです。

そして網戸がドアの外側に付いているのも、縫製の人がうっかり間違えたんじゃないだろうか?と首をかしげたくなるほど不思議で使いにくい構造でした。
ちょっと暑いから網戸にしようかという時に、いちいちドアを全部開けて、ドアの外側についている網戸を締め直すなんて、どう考えてもおかしいと思う(HPを確認する限り、どうやら新しいモデルは内側に網戸をつけたようです)。

あと、雨続きでも移動しながらキャンプを続けるチャリダーとしては、外張りだけで自立して、雨の日には内張りだけを最初に撤収できるタイプ(吊り下げ式など)の方が、内張りをいつもドライに保っていられるので、雨が続いても快適です。

 

***
いつも雨が降る度に買い替えたいねと言いながら、それでも紛失するまで使い続けていたのですから、なんだかんだ言っても、思い出の詰まった愛着のある好きなテントでした。
3年半という長い間僕らを守ってくれて、ありがとう。


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