Mar,19,2012

楽しみにしていた弓場農場での生活が始まった。
弓場農場は1930年代に、日本から新天地を求めてブラジルに移住してきたブラジル移民の方々が築き上げた共同農場で、今でも旅行者を広く受け入れてくれることで有名だ。
移住当初は数家族が集まって共同生活を送っていたのだが、今では少数の方を除いて大半の方々が互いに親戚関係にあり、5,60人の巨大な一つの家族を形成して生活している。

原則として団体でお金を管理し個々人がお金を持たない共産的な集団で、かなりの割合で自給自足の生活を営む傍ら、バレエや音楽などの芸術活動も盛んに行っているという、あらゆる角度から見て興味が尽きない農場だ。

農場の日々は日本人らしい規則正しいスケジュールの下で過ぎていく。
朝6時の朝食に始まって、午前中は7時から12時まで、昼食を挟んで午後は1時から4時までが労働時間、そして夕方6時15分が夕食の時間といった具合だ。
同じリズムを刻んで過ぎていく日々は、長らく気ままな旅行生活を続けている身としてはとても新鮮に感じられる。

旅人が手伝う仕事は様々だが、女性陣は野菜のパック詰めや厨房の手伝いなどの屋内作業、男性陣は畑での野良仕事が基本だ。
クワもカマも握ったことのない僕が役に立てるのか心配だったけれども、弓場農場では昔ながらの手作業仕事が多いので、実際に畑に出てみればカルピ(草取り)を中心として野菜の収穫から土づくりまで、僕のような農業未経験者でも手伝える仕事に事欠かない。


農作業に出かける旅人たち。男は基本的に野良仕事だ。

収入を得る手段としての農業は、いつどこで何を作るかから始まって、効率やら採算やら自然農法やら有機農法やら災害やら流通ルートの確保やらと、マネージメント能力が大きく問われるとても難しい仕事なのだろう。
でも僕はマネージメントを勉強しに来たのではないので、そこら辺りに頭を悩ませる必要もない。
オクラの木やマンジョーカ芋の木やかぼちゃの苗やアセロラの実といった新しく目にするものを、稲刈りや土づくりや釣りといった目新しい体験を存分に楽しみながら、ただひたすら気持ちよく汗を流していればいい。
一昔前は農場にも若者が沢山いたので無知な旅人はかえって足手まといだったようだけれども、現状では旅人も立派な労働力になっているようなので、僕らも少しは役に立てているんだなあと感じられてホッとする。

そう。少しは役に立たないとと焦ってしまうほど、弓場農場では本当に良くしてもらえる。
客人として大歓待を受けるという訳ではなく、到着した初日から、あたかもずっと昔からこの農場で生活してきたかのように自然に農場の輪に入れてもらえるのだ。
昔から旅人を受け入れ続けてきた土壌があるとはいえ、少人数で大家族的な集団を営んでいる方々がここまでオープンに赤の他人を受け入れてくれる事に、衝撃的な感動を覚えてしまう。
日本人のご多分にもれず自分の属するグループにしがみついては何かと排他的になろうとする僕の浅ましい根性とは、根本的に大違いなのだ。


ゴマの木からゴマを採取。これは女性陣の仕事。

炎天下で気持ち良く汗を流した後は、至福の食事タイムが待っている。
弓場の食事はとにかく美味い。汗をかいたから美味しく感じるなんていうレベルじゃない。
農場で出される食事は、心から美味しい!と叫べるものばかりだ。それもそのはず、食卓に並ぶもののほとんどは弓場農場で作られたもので、野菜や乳製品やフレッシュジュースはもちろんのこと、ジャムや味噌や醤油まで自家製なのだ。
素材の絶品さ、味付けの絶妙さもさることながら、自分たちで作ったものを自分たちで食べるという明快さが、とても新鮮で心地良い。


弓場の食事準備風景。その豪快な準備っぷりに圧倒される。

夕食の後はフリータイムで、お風呂に入ったり、時々のゲストが主催するダンスや整体などのワークショップに参加したり、音楽を奏でたり本を読んだり麻雀を楽しんだりと自由な時間を過ごしている。
そして夜も更けてくると夜な夜な誰か彼かが食堂に集まってきて、ピンガ(サトウキビの酒)をいただき、料理自慢たちの作る絶品つまみに舌鼓を打ちながら、毎晩遅くまで盛り上がる。

炎天下に慣れている僕ですらうんざりする酷暑の中で何時間も一緒に畑を耕していると、特に何を話すわけでもないのに農場の人や旅人たちと自然と打ち解けてくるのだから不思議なものだ。
その場の空気とか腹の虫の居所なんて関係なく、ひたすら同じ空間で同じ作業をすることを通じてその人のことを感じて行くプロセスが、学生時代にクラスメイトや部活仲間と打ち解けていく過程と被って、何だか気恥ずかしいような嬉しいような甘酸っぱいような、そんなフレッシュな気持ちが止まらない。
そしてそんな風に自然に身構えた心を捨て去った後で一緒に飲むお酒、楽しくないはずがない。


自家製みそで作ったみそ汁に、自前の野菜。美味くないはずがない!

気持ちよく働き、美味しく食べ、楽しく語り合うシンプルで充実した日々。
期待以上の、想像以上の包み込まれるような温かさの中で、
2週間の弓場農場ライフは、またたくまに過ぎていきそうだ。


深夜食堂は今日も大賑わい。


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