Nov,18,2010

この2年間、雨の中で走った日は数えるほどしかない。
なるべく乾期に当たる様に旅する地域を選んできた賜物だ。
でもアジア横断ともなるとエリアが広すぎて、ずっと乾期に旅するという訳にも行かない。
ここグルジアは今が一番雨の多い季節。
グルジアの旅は雨との戦いだった。

僕らの自転車バッグはオルトリーブの完全防水バッグだし、レインウェアもパタゴニアから素晴らしいジャケットを提供して頂いているので、雨の中を走っても荷物や体が濡れる心配は殆どない。
さすがに雨の中でテントを張るのは厳しいけど、ちゃんと雨風をしのげる場所で一日の走行を終えてジャケットやらを乾かせれば、まあ何とかなる。

でも雨の自転車走行はやっぱり楽しくない。
少しでも停まると一気に体が冷えてくるから、基本的にひたすら漕ぎ続ける事になる。
通過する村々も閑散とするし、景色も見えないし、そもそも周りなんて見る余裕もなく目の前に集中するしかない。
チェーンもすぐにキコキコと嫌な音が鳴り始めるし、ブレーキはすぐにすり減るし、雨に打たれ、水たまりにはまり、トラックに水をかけられて、自慢の愛車はとても無残な姿だ。


暖炉がたまらなく嬉しい。凍ってしまいそうなくらい冷えた手足がゆっくり温まっていく。

トビリシを出発して3日間、クタイシという次の街まで雨の中をひたすら走る。
もう心臓が止まるかというくらい寒い。
すぐに指先がしびれ始めるし、なるべく息をとめて全身を堅くしつつ、ひたすら足を動かす。
こりゃ何の修行だ?

2日目、朝から豪雨を目の前にして早々に気持ちがなえ、タクシーに乗ってしまおうかと企む。
タクシーの運転手に値段を聞き、30分くらい二人で悩みに悩み、ようやくタクシーを使おう!と決めて運転手にOKを言いに行ったら、運転手が突然値段を釣り上げてきた。
釣り上げてきた値段はたった数百円。
だけど、これはお金の問題じゃない。
最近はボッタくりにもかなり寛容になって来た僕らだけど、今回ばかりは、足元を見るような仕打ちに二人とも激怒。
もういい、自力で走ってやる!と土砂降りの中を飛びだした。


温かいチャイにあっつあつのハチャプリが嬉しい。部屋と外の気温差にレンズが曇る。

もちろん僕らが激怒した所で雨が止むわけでもない。
もう少し大人になるべきだったか?いやあそこは折れてはいけない場面だった、などと自問自答を繰り返しながら、雨の中ひたすらペダルを漕ぐ。
午後になり、いい加減に我慢の限界が近づいて来たころ、開いているのかも分からない怪しげなレストランが目の前に現れた。
恐る恐るドアを開けると、店のおばちゃん達が暇そうに奥の暖炉の周りでたむろしていた。
とりあえずオープンはしているみたいだ。
僕らはビショビショのドロドロなので、遠慮して入口近くのテーブルに陣取ろうとしたら、
おばちゃんたちが、何しているの!早くこっち来なさい!と暖炉前の特等席を開けてくれた。
そして薪を次から次へと継ぎ足して、注文なんて後でいいから取りあえず温まりなさいと、笑顔とジェスチャーで伝えてくれる。
ああ、温かい。そしておばちゃん達の笑顔が嬉しい。
これまでいまいちグルジア人と相性が合わずに残念な思いをして来たのだけど、
この過酷な状況で初めてグルジア人の親切に触れられて、体も心もじんわりと溶けていく。
この瞬間があるだけでも、今日頑張って走ってきた甲斐があった。
この人たちと出会うために、タクシー事件もあったのだと思うと、あの怒りもゆっくり溶け出していく。
結局1時間以上温まり、ほくほくの心で店を後にした。


宿の部屋にマットを敷いて寝る。ひどい部屋でも薪ストーブがついていて、雨をしのげるのでありがたい。

運よくその日は峠の手前で宿に泊まることができた。
ベッドはめちゃくちゃ沈んで腰が痛くなりそうだったので、床に自前のマットをひいて寝袋を出して寝たのだけど、雨風をしのげるだけでもありがたい。
その夜は一晩じゅう雨が降り続いたのだけど、翌朝には雨音がやんだ。
やった!と思ったのも束の間、
僕らがいる峠の手前だけが晴れていて、峠の向こうは相変わらず真っ黒な空だ。
なるほど、山のあっちとこっちでこんなにも天気が違うのか。
余りに教科書通りの天候で、まるで理科の授業を受けているみたいだ。
案の定、峠を越えた瞬間にみぞれ交じりの大粒の雨が降って来た。
ああもう寒い、いい加減にしてくれ。

結局丸3日間、土砂降りの中を走りに走ってようやくクタイシに到着。
皮肉なことに、翌日は朝から見事に晴天だった。
グルジア、ついてないなあ。


雨の中の走行がウソだったみたいに黒海リゾートのバトゥミでは雲ひとつない晴天に恵まれた。

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