Aug,07,2010

ここ最近、自転車の後輪がゴリゴリと嫌な音を立てていた。
どうやらハブ(タイヤの軸)が調子悪いようなのだけど、こういう繊細なパーツは素人の手には負えない。
せっかく大都会タシュケントにいるのだから今のうちに直してしまおうと、チャリ屋を探すことにした。

ところが、誰に聞いても僕らのチャリをちゃんと修理してくれる自転車屋なんてないと言う。
街で一番の品揃えだという自転車屋に行っても、ラインアップは絶望的に貧弱で、素人が見ても安物と分かるものばかり。これなら日本のホームセンターの方がよっぽどましだ。
こんなところで、大切な愛車の修理なんて頼めたもんじゃない。
これから山だらけの国タジキスタンに行くというのに、これは本格的に困った。

どうやって修理したものかと途方に暮れていたら、
自転車屋の従業員が“今携帯でマスターを呼んだから、2時間後にもう一度来い”などと言いだした。
自転車屋でも直せないものを、いったい誰が直せるんだ。
そもそも“マスター”ってなんだよ。カンフー映画の見過ぎじゃないのか?


ウズベキスタンの最高紙幣は約50円の価値しかない。100ドル札2枚を両替すると、こんな大量の札束に変身。数えるのが面倒くさい!!

2時間後に到着したマスターは、サングラスに短パン姿の怪しげな若造だった。
英語もあまりしゃべれず、自転車を眺めてはタイヤをくるくると回しているだけ。
これは全然ダメだ。
もう適当に切り上げて他の店を探さなくちゃと思っていたら、
今度はその若者が“今から俺のマスターのところに行こう”と言いだした。
何だよ、君は偽マスターだったのか。

偽マスターと一緒に自転車をタクシーに積み込んで、車を走らせること約20分。
タクシーはずんずんと郊外に進み、さびれた廃工場の様なところでようやく停車した。
そこに待ち構えていたのは、英語が全く喋れない仏頂面の若者だった。
え、ここ?
ひょっとして何か騙されている??

ところが、そんな僕の不安をよそに、彼は無言でタイヤを受け取るや否や、無言でタイヤをバラし始めた。
何一つ迷うことなく、素晴らしい手際で、あっという間にタイヤをばらしていくその姿は、美しいの一言。
彼はやがて、ハブを構成する小さいパーツが欠けているのを発見し、
そこでにこりと笑って、初めて言葉を発した。
“これが原因だよ。他のパーツは大丈夫だから、もうノープロブレムだ”
おお、素晴らしい。
彼こそが真のマスターだったのだ。


音楽を聞きながら無言で作業を進めるアンドリュー。まさに職人って感じだ。

真のマスター(アンドリュー)は、偽マスターのチャリ仲間で、
海外から自転車やパーツを取り寄せては、自分や仲間のチャリをいじっているメカニックマンだった。
彼はこの国ではろくな自転車もパーツも手に入らないよ、と言っていた。
自転車はカザフスタンから買ってきて、パーツはインターネットでイギリスから取り寄せるのだそうだ。
この国で自転車を趣味を持つのは、いろいろと大変そうだ。
メカに疎い僕らがこんないいパーツを搭載した自転車に乗っているなんて、
彼からしてみれば豚に真珠状態なのだろう。
これくらい自分で直せよ、って思っていたんだろうな。

ちなみに怪しげに見えた偽マスターのフィリップも実はとってもいい人で、
たどたどしい英語で必死に通訳してくれたり、日が暮れるまで付き合ってくれたにも関わらず、最後は帰りのタクシー代も受け取らずにあっさりと自分の家に帰って行った。

翌日、オーバーホールを終えた僕の後輪は、新品のようにピカピカになっていた。
今回もいろんな人に助けられて、僕の自転車が息を吹き返した。
ありがとう!
さあ、これから憧れのパミール高原だ。


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