Dec,18,2008

5日間のイスラエル滞在を終え、ヨルダンの首都アンマンに帰ってきました。
不思議なもので、シリアからヨルダンに入国した時は、
“ヨルダン人ってなかなか笑顔を見せない都会っ子だなあ”なんて不満に思ったのに、
エルサレムから帰ってくると、ヨルダン人が笑顔な事に気づいてホッとしたりします。

“都会に来たなあ”という実感は、
街並みや人々の服装が洗練されているといったビジュアル面から感じることもあるけれど、
横断歩道で自動車が道を譲って止まってくれたり、歩行者が信号をきちんと守っていたり、
すれ違う人に道を聞こうとしても無視されたり、目が合っても微笑んでくれなかったり、
そういう些細な瞬間に、強烈に”都会だなあ”と感じるものです。

アンマンは平和で退屈でやることのない街なので、1泊してすぐ出発するつもりだったけど、
イスラエルで飽和状態になった心と頭を自転車モードに切り替えるため、
何にもしないdayを作って延泊し、今日は1日中ボーっとしています。
明日からはキングス・ハイウェイを通って、ペトラ遺跡に向かいます。
キングス・ハイウェイは、ヨルダン渓谷を南北に貫き、いくつもワディ(枯れ谷)を越える道。
何でも、標高900mから一気に標高マイナス400m(!)の谷底まで下り、
また同じだけ登り、同じだけ下り、また登る。それを何度か繰り返すそうです。
考えただけでもゾッとしますが、とても美しい道との評判なので、今から楽しみです。

イスラエルは短い滞在でしたが、自転車旅とは全く違った、とても有意義なものでした。

エルサレムで、ナチスによるユダヤ人ホロコーストの記念館に行きました。
何の罪もない人々が、ユダヤ人だからという理由で理不尽で残酷な仕打ちにあった現実を前に、
何ともいえない怒りと悲しみがこみ上げてきました。
他方、イスラエル建国に先立って、ユダヤ人によるパレスチナ人ホロコースト(ナクバ)が
行われた歴史は、恥ずかしながら今回始めて知りました。
アルメニア人大虐殺をトルコがひた隠しにするように、
イスラエルもまた、ナクバをひた隠しにしているそうです。
大量虐殺を受けた民族が、他の民族を大量虐殺する悲しい歴史。

イスラエルでは、18歳になると、男性は3年間、女性は1年9ヶ月の兵役に就きます。
世界中で出会うイスラエル人の若者のほとんどは、この兵役を終えて直ちに旅に出るそうです。
彼らの中には、旅先で、毎晩のように酒とドラックとパーティーの日々を過ごす人もいます。
バックパック旅行経験者は、世界中でそういうイスラエル人旅行者を見ていると思います。
他方、彼らの経験してきた兵役は、戦争のない国でのそれではありません。
目の前の少年が、目の前のデモ隊が、ひょっとしたら爆弾を体に巻きつけているかもしれない。
18歳という若さで、ある日突然そういった生死の最前線に置かれ、
恐怖心から正常な判断がつかず、罪もない人々を殺めた兵士も多くいる。
実際、兵役を終えた若者が、人生を捨ててドラックに溺れるケースもあるそうです。
旅先で無目的にパーティーを繰り返すイスラエル人の心の中には、
決して他人に語ることのない、拭い去れない深く鋭い傷があるのかも知れない。

ヨルダン川西岸地区(パレスチナ自治区)にヘブロンという街があります。
極右派のユダヤ人入植者が数多く住むこの街では、深刻なトラブルが日々発生しています。
実際、僕らがイスラエルに入国する直前にも数十人が負傷する事件があったし、
僕らが入国した日にも、13歳のパレスチナ人の少年がイスラエル兵によって殺されています。
この街を訪れた旅行者から聞いた話では、この街のイスラエル兵は完全武装をして、
大勢で隊列を組み、銃を構え、銃口を民家に絶えず向けながら街を歩いているそうです。


美味しそうにアイスを食べる兵士の肩には、実弾が装てんされた中が無造作にぶら下がる

イスラエルとパレスチナ自治区との境には、
ベルリンの壁の規模を遥かに超える全長700kmにも及ぶ分離壁が、
その完成を間近に控えています。
その壁は定められた停戦ライン(グリーンライン)を遥かに越えて建てられ、
パレスチナ人の生活の根拠を奪い去り、あたかも彼らを兵糧攻めにするかのよう。
パレスチナ人自治区の失業率は40%を越えるともいわれているそうです。

ヨルダン川西岸地区のビリーン村では、
イスラエル軍が建設した分離壁について国際司法裁判所が違法の結論を出したのに、
依然としてイスラエル軍が立ち退かないため、
現在でも毎週デモが行われており、それに対して催涙弾やゴム弾による応酬がなされています。

道を歩いていただけで、何の罪もないのに殺される18歳のパレスチナ人。
否応なく一般市民に向けてマシンガンを乱射する18歳のイスラエル兵。

知っているべき事なのに、考えるべき事なのに、知らなかったし、考えもしなかった。
あらゆることを知っているかのように振舞っていた18歳の自分が、
メディアから与えられた知識だけで世界の出来事を知っているかのように勘違いし、
訳知り顔で知識人のように振舞う自分が、凄く恥ずかしい。


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