Oct,13,2010

イランといえば、戒律厳しい厳格なイスラム国家というイメージがあった。
でも実際のイランは全くそんなことはない。
いや外見上はそんなことあるのだけど、でも実際の人々の暮らしを見るとそんなことはない。
ムスリムじゃない僕からすれば理不尽とも思える厳しい規制が沢山ある中で、それをうまくすり抜けて日々を最大限エンジョイしているイラン人たち。
まるで厳しい校則を押しつけようとする先生と、何とかその隙間を縫おうとする生徒たちとの争いを見ている様だった。

例えばラマダン(断食月)。
ラマダンの間は、日の出から日没までの間、食べることも飲むこともできない。
じゃあイラン国民は頑張って断食しているのかというと、全然そんなことはない。
もちろんイスラムの教えを守っている敬虔な人たちも沢山いる。
レストランなども日中は閉まっているので、旅行者の僕たちは食べるものに困ってしまう。
でもイラン人に聞いてみれば、多くの人が家に帰って普通に食事をしているという。
街中で堂々と水を飲んでいる人もいるし、ホテル内ではイラン人もとても自然に食べている。
みんな仕事中だとか、旅行中だとか、何かと理由をつけて断食をしていない。
あるイラン人にどれくらいの人が断食しているのかと聞いたら、40%くらいじゃない?と答えていた。
見栄もたっぷり入っているだろうから、実際に断食している人はもっと少ないんじゃないだろうか。
友人には“俺は断食中だ”と宣言しておきながら、実際は家でこっそり食べている人も多いらしい。


真っ黒の布で肌や髪を隠す女性と、なんとかぎりぎり規則を守りながらお洒落する女性たち。

イスラムでは厳禁のお酒類。
イランでも外見上はお酒厳禁なので、僕らはイランにいる間全くお酒類を飲めなかった。
1か月以上の禁酒なんて、少なくともこの10年間はしたこととがなかったので結構しんどかった。
でも現地人に聞いてみると、だいたい人がお酒の入手ルートを知っていた。
しかも値段だってそんなに高くないし、自分でワインを作っている人もいた。
友人の友人の友人の伝手を使うとか、ある広場に行けばブローカーがいるとか、まるでドラッグの密売現場みたいだ。
ある街では、ある普通の交差点が密売取引スポットだよと教えてもらったのだけど、その交差点のわずか50m先には警察署があった。
その街を案内してくれた人曰く、“警察だってみんな見て見ぬふりさ”。
ちなみにお酒を飲んで見つかった場合の法律上の刑罰は、「むち打ち×72回」だそうだ。

そしてスカーフ。
女性はスカーフを着用して髪の毛を隠すのが決まり。
さすがに外でスカーフを着けていない女性は一人もいなかったけど、
少なくとも僕らが話した限りでは、イラン女性でスカーフが好きという人は一人もいなかった。
家に帰ればさっとスカーフを外しているし、ようこには“そんなもの邪魔くさいものさっさと取っちゃいなさいよ”と言う。
多くの若者が、一応スカーフを着けながらも出来るだけ髪を見せられる、そんなギリギリのラインを狙って精一杯のおしゃれをしていた。
まるで制服のスカートの長さを気にする中学生みたいだ。
もっとも僕らは英語を話せる若者と話すことが多かったので、敬虔なムスリムや年配の方がどう思っているのかは分からないけど。


あの髭のおっさん呼ばわりのイラン革命立役者ホメイニ師と現最高指導者ハメネイ師。あのじいさんは(80歳近いらしい)一生懸命祈りなさいとばかり言う。遊ぶな、楽しいことをするな、愛してるっていうなって若者に言ったってそんなの無理だよとイラン人の若者が吐き捨てた。

この国に表現の自由もない。
ある青年は、反政府的言動を繰り返していた親戚が警察に“自殺”させられた、と話してくれた。
政府の悪口をいう事が「憲法で保障されている表現の自由ですよ」なんて言われても、日本にいるとなかなか実感できないけれど、この国では“○○の自由”というものの重さがひしひしと感じられる。
とはいえ実際は、イラン人と5分も話せば必ず“大統領が好きか”と政治の話を振られる。
もちろん、わざわざそういう質問をしてくるくらいなのだから、その人たちの答えは“NO”だ。
その辛辣な批評は聞いていてなかなか楽しい。
イラン革命の立役者ホメイニ師なんて、「あの髭のおっさん」呼ばわりで、けちょんけちょんだ。
今では、緑の運動という草の根的なレジスタンス活動に、多くの国民がこっそり参加しているらしい。

意外なことに、イラン人はアメリカが好きだ。
イラン人と話すと、「ああこの国は自由がない、自由がある海外に住みたい」と不満を述べる人が多い。
じゃあどこの国に行ってみたいの?と聞くと、断トツで一番人気だったのがアメリカだった。
「あの国は自由があるし、仕事もあるし、家も大きいし、車も大きい」
それが理由だそうだ。
ある日サテライトTVで音楽番組を見ていたら、アメリカに亡命したイラン人女性がタンクトップを着てロングヘアを振り乱して歌っていた(ちなみにイランでは女性だけで人前で歌うのは法律違反だ)。
それを見ていたら“アメリカって自由だ”ってイラン人が思うのも分かる気がした。


ラマダン明けのお祈り。皆が一斉にお祈りする姿は、これぞ厳格なイスラム国家というイメージ通りの光景だった。

インターネットも規制がひどい。
家庭用のインターネットは、未だにダイアルアップ方式しか許されていないそうで、まるで10年前に戻ったかのような遅さだった。
そしてYoutubeはもちろん、Facebookも使えないし、BBCなどの海外ニュースサイトもフィルターが掛けられていて見れない。ちなみにホームページをアップするためのFTPも使えないので、イランではホームページの更新ができなかった。
Youtubeを規制している国は結構あったけど、今の時代でここまでネットの規制をしている国なんてイランと中国くらいじゃないのだろうか。
でもイラン人はみんなフィルターを解除する方法を知っている。
いろんな方法を駆使してフィルターが掛けられたサイトを見ているし、普通にFacebookだって使っている。

イランをちょっと旅行しただけでも、TVやニュースで見る姿とは全く違う姿があった。
そして現実のイランの姿は、ずっとずっと健全だと思う。

そういえば、10年前にこの国に来た時は、ここまで現地人の不満を聞くことなんてなかった。
今、英語を話せる人たちは、口を開けば政府の不満をこぼす。
この10月から、長引くアメリカの経済制裁の影響で日用品や公共料金の値段が上がるそうだ。
いつか溜まりに溜まった人々の不満が爆発する日が来るのだろうか。

これから先、どんな展開が待っているにせよ、
この国の美しいモスクや、歴史ある文化や、優しい人々が傷つくようなことがない事を願って。


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